short・ 阿栄
□Sweet heart 2
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「栄口、なに変な顔してんだ」
手洗い場で出会った栄口は鏡を見ながら、舌で口の中を探ってて、片方の頬だけがまるく膨らんでいた。
「あ、阿部〜、水谷にもらったミルキー舐めてたら、歯にくっついて取れなくなっちゃったんだよ」
眉をハの字にして困ったように笑う。
「どれ、口開けてみな」
んあ、って口が開かれる。
「もっとだよ」
口の中を覗きこむ。
お、あれかな。
「ふが…っ」
「こら、噛むな。口開けてろって」
俺は栄口の口の中に指を突っ込むと、奥歯の裏にくっついてる白い塊に爪をかけた。
くそ、取れねぇ。
水谷みたいにしつこいやつだ。
いつまでも栄口にくっついてんじゃねぇっ。
「よし、取れた!」
俺はミルキーをティッシュに包んゴミ箱に投げ捨てると、手を洗った。
「…………ありがとうって、言うべきか微妙なんだけど。ふつー、人の口ん中に指入れて取らないでしょ……」
なんとも言えない顔でモゴモゴ言ってる栄口。
ああ?
俺の指なんて、しょっちゅうお前の中に出入りしてっだろ。
「誰も見てねーから、気にすんな。ーーそれよりお前、あんまり水谷から飴だのチョコだのもらうなよ」
「なんで?」
下心が透けてるからだよ。
お前らはしょっちゅう新発売だ、期間限定だって菓子のやり取りしてっけど、水谷はお前の茶飲み友達になりたい訳じゃないんだぞ。
(変に意識されるのも嫌だから言わねぇけど)
「なんでもだよ」
俺の答えに小鳥みたいに首を傾けて考えてる。
この小鳥は簡単に餌付けされちまいそうだからなぁ。
「じゃ、代わりに阿部がなんかちょうだい?」
そうくるかよ。
俺は胸ポケットにガムが入ってたことを思い出して栄口に差し出した。
「クールミントガム〜?」
ンだよ、なんか文句あるのか?
甘いもんばっか食ってると虫歯になるぞ。
したら、キスどころじゃなくなるだろーが。
そう言ってやると、栄口は黙ってガムの包みを開いて口にした。
耳が赤いぞ。
「う〜、スースーする。せめてキシリトールにしてよ」
涙目で言われて、帰りのコンビニで買うものが決まった。
………………………
どっちが餌付けされてんだか……。
『Sweet lovers 4』のあとがきで書いた、飴にまつわるもうひとつのお話でした。
このSweet 〜ってシリーズはお話の小道具にお菓子とか飲み物を登場させてるのが密かな楽しみだったりします。