short・ 阿栄


□春にして君を離れ
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お前、上手すぎ……。



欲望を吐き出した後の、荒い息の間に思わず洩らすと、上手すぎって誰と比べて?って、太股の間から顔を上げた阿部と目が合った。

濡れた唇を手の甲で拭う仕草に、ドキリとして口ごもる。


誰って……俺は…お前としかしたことないよ。


そう答えると、だろうなって肩を竦める阿部。



フツー、ないだろ。男に……口でイかされるなんて。

けど、比べる相手がいなくても、阿部がその行為に慣れているのは分かる。

戸惑いも躊躇もなく、一定の手順を踏んで、巧みに快楽を引き出す舌使いは、昨日今日身につけたものじゃないだろう。

ーー他の誰かとの経験がなくても、俺を追いつめる阿部の技巧が大したものだということは分かるんだよ。


んな顔すんなよ、と指先が軽く頬に触れた。


どんな顔してたっていうんだ、俺は。 


分からない見つめる黒い瞳がふっと、逸らされて、自嘲めいた笑みを浮かべる唇。



前に俺にそういうこと、仕込んだ奴がいんの。



誰?ーーと意識しないまま唇を動かした後、激しく後悔した。


知りたいのか、俺は。そいつのことを。知ってどうしようというんだ。



噛み締めた唇に頬から移動した阿部の指が触れた。



お前とは、似ても似つかない奴だよ。


………だから、俺を選んだの?



今度は言葉にせずに済んだーー。



口の中に差し入れられる、阿部の指。

次にその指がどこに侵入するのか知っている俺は、たっぷりと唾液を絡めて舐めてやる。


バカなことしているな、と頭の片隅で思う。

阿部はこんなことをするために俺を野球部に誘ったわけじゃないだろうけど……。

春休み、二人だけの野球部は不自然で歪んだ空間を生み出した。





力抜いて、息吐いて……。


言われなくても、無意識に痛みを逃そうとする体。


俺は阿部に仕込まれたって訳だ。


ゆっくりと挿入される、マメがつぶれてタコになってる指先。

粘膜が熱く蠢いて、探るように動く阿部の指を締め付ける。

しこった箇所をグッと突かれて、体が跳ねた。


耳を塞ぎたくなるような嬌声は、俺の口から放たれたもの。


やっぱ、お前、イイ声で鳴くなって、阿部こそ誰と比べてるんだよ。


首の後ろに手を回して、真っ黒で固い髪の毛を掴む。


指が抜かれて代わりに押し入ってくる、圧倒的な質感と固さを誇るもの。


体は容易く心を裏切って、気持ち良いと感じる行為を善とする。






だから、






今度はお前とは、似ても似つかないーーそう、明るいやわらかい髪と陽気な目をした、よく笑ってよくしゃべる奴を見つけて、俺が仕込んでやるよ。


俺の好きなポイント、角度、スピード……。

お前が俺の体に覚えさせていったもの、俺がそいつに教え込んでーーそいつでお前を上書きしてやるよ。



俺を抱きながら、別の誰かを求めてる阿部の欲望を受け止めながら、消えてしまえと願うほど、思い出さずにいられぬ想いがあることを、俺は痛いほど理解した。









それでも俺はお前を選ばずにはいられなかったんだーー水谷。







………………………

久しぶりに書きたくなった、黒栄口くん。阿部を忘れるために水谷を利用するんだけど、黒になりきれなくて、余計にツラいという……。じゃあ、白いかというと白くはないわな。水谷すまん泣いてくれ。

引かれ合うんだけど、うまくいかない阿栄が好き。

あ、もちろん阿部を仕込んだんのはモトキさん。

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