short・ 阿栄


□桜の樹の下で
1ページ/3ページ

桜の樹の下、逃げられないように追い詰めた。

茶色の髪にはらはらと降りかかる薄紅の花片が綺麗だった。

抗うように、嫌々するように頭を振る姿に煽られてーー

顎に手をやり、強引に口づけた。


高揚感に導かれるまま、熱い口内を舐め、絡めとった舌を吸うと、胸を押し退けようとしていた手から力が抜け、やがておずおずと背中に回された。


「あっ、べ……」


鼻にかかった甘い声に指先が痺れるようだった。

乱れて色づく吐息はどこまでも甘く、際限なく求めずにはいられなかった。




このままーー


時間が止まればいいとーー



抱き締めた細い体は、罪におののくように震えていた。





「こんなの……ダメだよ」って哀しげに微笑ったお前が、

桜の樹の下に埋めた想いが何だったのか、

俺には知る術もなく。





過ぎていく春休みの最後の1日を惜しみながら見送った。




.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ