short・ 阿栄
□桜の樹の下で
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桜の樹の下、逃げられないように追い詰めた。
茶色の髪にはらはらと降りかかる薄紅の花片が綺麗だった。
抗うように、嫌々するように頭を振る姿に煽られてーー
顎に手をやり、強引に口づけた。
高揚感に導かれるまま、熱い口内を舐め、絡めとった舌を吸うと、胸を押し退けようとしていた手から力が抜け、やがておずおずと背中に回された。
「あっ、べ……」
鼻にかかった甘い声に指先が痺れるようだった。
乱れて色づく吐息はどこまでも甘く、際限なく求めずにはいられなかった。
このままーー
時間が止まればいいとーー
抱き締めた細い体は、罪におののくように震えていた。
「こんなの……ダメだよ」って哀しげに微笑ったお前が、
桜の樹の下に埋めた想いが何だったのか、
俺には知る術もなく。
過ぎていく春休みの最後の1日を惜しみながら見送った。
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