long・(水+阿+巣)→栄
□鬼と白玉
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「じゃあ、さっきの続きね。
男はお姫さまを盗み出して背負って逃げるんだけど、夜も更けたことだし雨も降ってきたんで、お姫さまを蔵に隠すの」
穏やかな声で難解な古文を解説してくれる栄口。
俺は聞いていることをアピールするため、うんうんと頷き、それだけでは弱いかと感想を言ってみた。
「駆け落ちか〜。三橋んとこみたいだね。
俺も好きな子との仲を反対されたら、背負ってでも逃げるよ〜」
好きな子ってもちろん栄口のことだよ、と心の中で付け加える。
「ヘタレには無理だな」
うるさいな、阿部は。
「無理じゃないからね、栄口。俺、やるときはやるから!」
栄口が俺の差し出した手を取ってくれるなら、迷わず拐っていくからね。
「無理だね、お前には。背負って逃げてく根性も体力もねぇだろ」
むぅ〜。なんだよ阿部ってばいちいち突っかかって。
無理って二回も言うなよ。
……確かに俺は持久走のタイムそんなに良くないけど、好きな子を背負って逃げるくらいの体力はある。
「栄口っ、ちょっと立って」
「えっ、なに、うわっ」
栄口の手を掴んで引っ張り上げて、強引に背負う。
「水谷っ、降ろせ」
「っと、栄口、暴れないで」
ジタバタと暴れられたらキツイけど、これくらいの重さなら大丈夫。
うーん、でも、どれくらいの時間背負ってられるかなぁ。
てか、やっぱり栄口細いな。
触れてる腿とか筋肉の張った感じはするんだけど、骨自体が細いのかな。
触れてる、腿……?
え、え、えぇっ。
そんなとこ触ってていいのか、俺!?
密着している背中一面の栄口の体温を意識したとたん、速くなる鼓動。
「もう降ろせって」
僅かに乱れた息が、耳に触れて……。
どぎまぎしている俺をよそに、腕を突っ張って降りようとする栄口。
「ちょ、ちょっと待って。危な…っ、うわ」
バフンッ。
ものの見事にバランスを崩してベッドに倒れこんでしまった。
「さ、栄口、大丈夫?」
とっさに栄口を下敷きにしないように躰を捻ったけど。
ガバッと手をついて起き上がる。
俺の下にはびっくりして見開いた目のまま固まってる栄口。
……なんか、ハムスターとかリスみたい。
小さくって、可愛くって。
手の中にずっと留めておきたい感じ。
「栄口、あのねっ……」
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