long・(水+阿+巣)→栄


□I'll steal your heart. 1
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握っていた栄口の手首を離す。

……また思わぬ力が入ってしまいそうだったから。

“栄口が怪我させられたのを知ったら、阿部は間違いなく怒り狂うよ”

“阿部の三橋対する態度は、「投手」に対する執着から生まれたもので、お前に対する感情とは別物なんだよ”


そう言ってやったら、栄口はどんな顔をするんだろう。


「巣山?どうかした?」


急に手を離された栄口が不思議そうに俺を見上げてくる。


「余計な世話だったのかなと思って」


自分で思うより低くそっけない声が出てしまった。


「巣山……怒ってる?」


不安気に揺れる瞳を見て途端に後悔した。

栄口が(たぶん無意識に)俺と阿部を比べるのは、栄口のせいじゃない。

阿部と較べられる位置に甘んじている、俺が悪いんだ。


「怒ってないよ。ごめん、キツい言い方になった……」


安心させるように笑いかけ、歩き出そうとして……つん、とシャツが引っ張られた。

振り返ると栄口が俺のシャツの裾を握り締めていた。


「ごめん、巣山だって試合中だったのに。俺、迷惑かけて」

「栄口……」

「わざわざ付いてきてくれてるのに、ありがとうも言わないで……」


しおれた栄口の様子に、俺の心臓がまた痛みだす。


「巣山が駆けつけてくれて、嬉しかったけど、なんか照れくさいのもあって……。
素直に好意を受け取れなくて、ごめんな。心配してくれてありがとう」


最後は消え入りそうな小さな声になって、うつ向いてしまった。


「栄口、俺は怒ってなんかないし、迷惑だとも思っていないから」


抱き締めたいのを我慢して、そっと肩に手を置く。


「ほら、早く保健室に行こう」

「……うん。ありがと、巣山」


気を取り直してにっこり笑った栄口の笑顔に愛しさが込み上がってくる。



さっき傷つけられたと思った心臓の爪痕がふさがっていくような気がした。


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