long・(水+阿+巣)→栄


□I'll steal your heart. 2
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「落ち着いて、栄口。――部誌が書けたら、ちゃんと話聞くから。先に書くの終わらせないと、どっちも中途半端になっぞ」

「う、うん……」


ごめんって、口の中で呟いて、ペンを握り直す。


"どっちも中途半端になっぞ"


巣山の言葉はいつだってシンプルに確信をついてきて、頼もしくもあるけど、どきりとする。

いつもは欄一杯に書き込む所感をなんとか半分ほど埋めて、ペンを置いた。

今の俺にはこれが精一杯だ。


「終わった?――やっぱり栄口の字はキレイだな」


部誌に目を落とした巣山の言葉にそんなこと……と俯いてしまう。


「沖のほうが全然うまいし……」

「ああ、沖も字上手だよな。けど、栄口の字は……なんてーの?一文字一文字、丁寧に書いてあって……読みやすくて、俺は好きだよ」

「っ、…あ、ありがと……」


巣山と話すのが気まずくて、ゆっくりゆっくり書いてた字を褒められて、なんだか後ろめたい。


それに――


"俺は好きだよ"


――巣山は字のこと言ったのに、なに動揺してんだ、俺。

俯いたままじっと部誌を見つめる。

巣山って、どんな字を書いてたっけ……。

水谷の転がっていきそうな丸い文字なら思い出せるのに。

俺……、巣山のこといろいろ見過ごしているのかな。


「……ごめんな、栄口」

「え、……」


思ってもみなかった巣山の謝罪に顔を上げる。

そこにあったのはいつもと同じ、巣山の黒く誠実な瞳だった。


「栄口、最近ずっと無理して笑ってるだろ」

「……」


なんて答えたらいいのか分からなくて目を伏せる。


「それに――今みたいに下を向くことが多くなったし。俺が困らせてるんだよな」

「ちがっ、巣山は何も……俺が、その…意識し過ぎちゃって……」


告白の後もずっと変わらずに接してくれて、目が合えば穏やかに微笑んでくれる巣山に俺は甘えてて。


――このまま、時間が経てば元に戻れるんじゃないか、なんて。


自分に都合のいいこと考えていたんだ。



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