long・(水+阿+巣)→栄
□I'll steal your heart. 5
2ページ/2ページ
「栄口も辛かったよね……」
伏せていた顔がゆっくりと上がった。目と鼻の頭が赤くなっている。
「――何があったか知らないけど、阿部は感情的になりすぎるとこあるし、栄口はただ驚いただけだったんでしょ。もう自分を責めるのはやめなよ」
「でも……」
「気にするなって言っても気にするのが栄口だもんな」
他人の感情に気をつかいすぎる君が疲れてしまわないように、俺が守ってあげたいと思ったんだ。
今思えば、それが恋の始まり。
「俺、側にいてもいい?一人になりたい?」
一人になんてしたくないけど、もしかして俺がいることで栄口は余計な気をつかってしまうかもしれない。
大丈夫じゃなくても、大丈夫って笑うのが栄口だから。
「そばにいて……みずたに」
それはとても小さな声だった。
良かった。ありがとう。そばにいるのを許してくれて。
「うん、いるよ」
そう答えて、ぽんと栄口の頭に手を置いて……
「あ、ごめん」
今は触られたりとかって嫌だろうと、手を引っ込めようとしたら栄口の頭が緩く横に振られた。
「……いいよ。なんか落ち着く……」
胸の奥にあたたかいものが広がって、俺は柔らかな短い髪をすくように、ありったけの優しさを込めて繰り返し栄口の頭を撫でた。
穏やかで、――少なくても俺には――満ち足りた時間だった。
片想いの神様はときどきこうやって、報われない想いにご褒美をくれるから、俺はこの恋を諦めきれないんだ。
俺にも――望みがあるんじゃないか、なんて思い上がりなのかな。
「もし、もしさ……、栄口が誰か一人を選べなくて……」
「みずたに……」
知ってるの?って、見開かれた目に笑いかける。
「俺は…難しいことはよく分かんないけど、栄口が幸せに笑ってられるのが一番大事だと思うんだ。
――だから、もし、ツラくてどうしようもなくなったら、俺がいるってこと、思い出してね?」
こんなときにこんなこと言う俺はズルい奴なんだろう。
「俺は……栄口が好きだから……栄口の力になりたいんだ」
「……ありがとう」
いつもとはちょっと違う、栄口の静かな微笑み。
「水谷が友達でいてくれて良かった……」
肩に頭を預けた栄口が「ずっと、これからも友達でいてね」と瞳を閉じる。
心臓が痛くて涙が出そう。
でも、
この痛みごと栄口が好きだよ。
だから、ほら、俺も笑うんだ。
えへら〜ってね、栄口が「水谷の笑顔って力が抜ける〜」って言うような。
「大丈夫だよ、栄口」
俺が君を守ってあげる。
君が誰のものでも。
君の笑顔を誰にも奪わせはしない。
だから今はまだ、
遠くに行ってしまわないで。
.