treasure(捧げもの)


□signal
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「お昼、屋上で食べよ」って言い出したのは栄口なのに、弁当を食べ終わってほんの少し経ったら、


ふあぁ…ってあくびして「ねむぃ〜」って舌足らずに呟いて、ぽてんと俺の肩に頭を預けてきた。


(うわ、それ反則!可愛い過ぎ)



睫毛の端っこについた涙の滴を指先で拭って目を閉じて、


「ごめん…ちょっと肩貸して」


って、ホントに眠たくってたまらないみたいなんで、俺はいろいろと手を出したいのをなんとか堪えた。





けど、




……肩を抱くくらいならいいかな。


(ホンとはぎゅっと抱きしめたいけど)


そろそろと手を伸ばす……いいみたいだな。

おとなしく肩を抱かれて目を閉じてる栄口。

スって伸びた睫毛が目の下に陰を落としている。




ってか、余計に手を出したくなるんですけど!




「昨日寝るの遅かったの?」



聞きながら栄口の肩から手を移動させる。



……髪を撫でるくらいならいいかな。



……いいみたいだな。




「ん…。ゲームしてた」



もっと撫でてっていうみたいに、手の平に頭が擦り付けられる。




うわぁ……、めちゃめちゃキスしたいんですけど!



でもなぁ、寝込みを襲うなって怒られたことあるからなぁ。


今朝もうっかり背中触っちゃったし。


だって顔を上げたら、目の前に栄口の真っ白い背中があって、

その背がしなやかに反らされるとき、どんなに甘くとろける声で俺を呼ぶか……思い出したら触れていた。


栄口は怒ったりはしなかったけど、「宿題全部できてないから」って、俺を待たずに教室に行ってしまった。



……避けられたんだよなぁ。



しょんぼりしてたらお昼のお誘いメールが来て、俺は元気を取り戻したんだけど……



栄口は、俺の忍耐を試すみたいに寄りかかってきて……


俺は自制心を総動員して栄口の髪を撫で続けてる。




柔らかくって、甘い香りがする栄口の髪。


(お姉さんと同じシャンプーらしい)


サラサラと気持ちいい手触りに俺の自制心はぐらぐら揺れて……




そっと髪に口づける……。



セーフ。



……気づかれなかったみたいだな。



(てか、もっと頑張れ、俺の自制心!)



こうして甘えてくれるのは嬉しいけど、ゲームはほどほどにしないと寝不足は健康とお肌に悪いよ。


栄口の手触りのいい、キメの細かい肌が荒れたりしたらイヤだからね。




ヤバ……思い出したら触りたくなっちゃた。



(栄口、いつもこんなに襟元開けてたっけ)



ボタンを外したポロシャツの間から見える肌が俺を誘惑してる。








ううん、

閉じた目を縁取る長い睫毛も、

うっすらと開かれた唇も、

触れあう場所から伝わる熱も、

預けられたまあるい頭の重みも、

匂いも、

全部全てが

俺を誘ってるよ。








うぅ〜。


耐えろ俺。


栄口は寝不足なんだから寝かしてあげないと。

栄口がね、いつでも安心して甘えられるような恋人でいたいからね。



……けど、けっこうこれはツラい。



息がかかる距離で、大好きな栄口が無防備に目を閉じて俺に寄りかかってんだよ?



何もできないなんて拷問だぁ〜。




「しばらくゲームはダメだからね」



思わず咎める口調になってしまった。

……夜中までゲームするくらいなら、俺とメールしてよ。



「昨日は仕方なかったんだよ」



答える栄口は目を閉じたまま。



「またセーブポイントが見つからなかったの?」

「ちがうよぉ」



眠いからかな、子どもみたいな言い方が、なんだかたまらなく愛おしい。



「一緒に旅してる魔法使いの弟子が美形だけどヘタレな奴でさぁ。盗賊に捕まっちゃたんだぁ」



そう言って、ゆっくりと睫毛を上げて俺を見る。



茶色の瞳の縁だけが青みがかったグレーをしていること、キスを交わすようになるまで知らなかった。


今はどんなキスをすれば、その綺麗な目が潤んで、熱い吐息を溢すかを知っている。


ねぇ、栄口、君が俺を見つめるとき、俺の心がどんなにざわめくか知ってる?



「フミキって名前にしてるから、助けにない訳にはいかないでしょ?」



俺の耳をきゅって引っ張って、

首を傾けてククッと笑う。



……今、なんて言ったの?



「も一回言って」

「魔法使いの弟子が美形だけどヘタレで……」

「そこじゃなくって……」



ん?

そこも引っ掛かる言葉があったぞ。



「ヘタレだから俺の名前ぇ?俺、ヘタレじゃないよ〜」

「でも、せっかく目を瞑ってくっついてるのに、髪にキスしかしてこないし……」

「へ………」






えっと……もしかして……全身で誘われてるって思ったのは……気のせいじゃなくて……?



バッて、栄口の手首を掴む。



いいの?俺、ガマンしなくても。


俺のしたいことと、栄口のされたいこと同じ?


もしかして、栄口、俺が動くのを待ってたの?




最初からずっと?




俺、読み間違えてないよね?





ああ、もう教えてよ、栄口!






ふふって艶っぽく笑う栄口に、心を奪われる。




「いいかげん気づいてよ。もう俺、待てないよ……」




柔らかい唇が頬に触れる。




「ねぇ、ぎゅうってして?」




可愛くおねだりされて、俺は栄口を押し倒してぎゅうぅっと抱き締めてキスの雨を降らせずにはいられなかった。
 



  
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