treasure(捧げもの)


□My moon bunny
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そこにいたのは……





白とピンクのふわふわのうさ耳をつけた、栄口。


羞恥に目元を染めて、反応を伺うように上目遣いで俺を見ている。


え、なに…この展開……。


ぽかんと口を開けて、さぞ間抜け面を晒している俺に、栄口が口を開いた。


「水谷、バニーガールが好きだって……」

「は?」

「田島が言ってた、こないだ9組で浜田さんと激論してたって」

「へ……?」


バニーガール、で、激論?


「水谷、バニーガール最高に可愛いって言って譲らなかったって」


あ、……ちょっと話が見えてきたような。


「それで……田島が…これ…くれたの。お兄さんが仮装に使ったやつが家にあったからって」


田島の兄ちゃんって……。


「バニーガールは男のロマンで憧れだから、栄口も協力してやれって。だ、脱、マ、マンネリだって」


田島の言葉を繰り返す、栄口の首も耳も真っ赤だ。


田島の奴、なんてこと言うんだよぉ。

マンネリ化するほどしてないって!




ーーいや、そうじゃなくて。


バニーガールが好きだなんて言ってないって。






ことの起こりは、昨日の昼休み。


主将会議をするからお前は邪魔、って阿部に7組を追い出された俺がたどり着いた9組での話。


泉は次の時間、英語の訳が当たるからって、教科書とノートを広げて英語辞書を捲っていて、田島と三橋は机にへばりついて昼寝中だった。

俺の話相手になってくれたのは浜田さんで。

最初は和やかに雑誌見ながら雑談していたんだ。

それがいつしか、三橋のナース好きから、コスプレの話になって。

「やっぱり、王道はメイド服なんですかねー」って言ったら、浜田さんが「それにネコ耳ついてたら最強」とか言うから。

「浜田さん、違うでしょ。そこはうさ耳でしょ」って、何気なく返したら「ネコ耳だろ。黒の」って言われて。

「いや、白のうさ耳が清楚でいいでしょ。あ、ピンクも可愛いかも」って言ったら、浜田さんは「いいや、黒のネコ耳が小悪魔的でいいんだ」って。


その辺から、お互いに誰のことを頭に置いて、ネコ耳だ、うさ耳だ、主張しているのかの察しがついて。


そしたら、譲れないし、負けられないでしょ?

自分の恋人が一番可愛いんだ!ってのは当然の感情だよね。



「絶対、うさ耳(つけた栄口)が最高に可愛い!」

「ネコ耳(つけた泉)の魅力には敵わないって!」

「うさ耳(つけた栄口)は、思わず抱きしめて守ってあげたくなる可憐さなんだからっ」

「お前、ネコ耳(つけた泉)にデレられてみろ、死ぬぞ」

「…え、デレるの?」

「かまってニャンとか甘えられてみろ」

「えぇっ、そんなことしてくるの!?」

「いや、俺の願望だけど……」


そうだろうな。

あー、ビックリした。

一瞬想像しちゃったよ。


「うさ耳つけて(栄口に)、『淋しいと死んじゃうんだよ』なんて言われたら、もう片時も離せなくて、トイレの中までついて行きますけどね」

「えっ、そんなこと言われちゃって、トイレまで一緒なの?」

「いえ、俺の…想像ですけど」

「なんだ……」

「でも、なんて言っても、うさ耳なんです。一番可愛いのは!」

「いやだから、ネコ耳だって、可愛くってたまらないのは!」

「うさ耳!」

「ネコ耳!」

「うっせぇー」



低い声と共に、後頭部に鈍い衝撃。


「「いってぇー」」


声を揃えて頭を擦りながら振り返る俺と浜田さんを見下ろしていたのは、英語辞書を手にした泉。


「辞書で人の後頭部強打するって、立派な犯罪だよぉ」

「おめえらが、デカイ声で変な単語連呼するからだろーが。回り、よく見ろ」


泉の言葉に回りを見渡せば、冷たい女の子たちの視線と、


「浜ちゃん、ネコ耳、メイドさんが好き、なん、だ」

「水谷、うさ耳ならメイドじゃなくてバニーガールだろ!」


いつのまにか昼寝から目を覚ました三橋と田島。


「野球部に変態はいらねぇんだよ。埋めるぞ」


氷の瞳で告げられて、俺は9組から退却した。(戸口で振り返ったら、泉のヘッドロックがキレイに浜田さんにキマってた)




田島ぁ、中途半端に話を聞いて変な風に栄口に伝えるなよぉ。


なんて説明すればいいんだよ。


お前の言葉に、健気にうさぎになってくれた、目の前の可愛い子に。


 
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