treasure(捧げもの)
□Over The Rainbow
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桜の並木道、すっかりとピンクから若葉の黄緑に塗り替わった道を歩く。
苗字はもう知ってる。水谷。
あいつも今、同じような風景を見て歩いているのかな。
あの涙目の顔を思い出すとほわっと胸の中が暖かくなった。
涙目の顔を思い出してこんな気持ちになるのも変で失礼なのかもしれないけど、間近で見られたのはあの時だけだったし。
なんなんだろう、この気持ち。
水谷ってなんだか不思議な力を持ってるみたい。
あったかくて、ふふふと笑うと後ろに軽い衝撃。
手のひらの持ち主は想像通り泉だった。
「何嬉しそーな顔してんの?」
「別に何もないよー」
ウソだ、と泉はぼやいた。
「なんでそう思うの?」
「だって今まで見たことないぐらい楽しそうな顔してるぜ?…あ、」
全く同じつぶやきをした俺に少し嬉しそうな顔をした泉は、両手を頭の後ろで組んだ。
「あいつら、まだ走り込みしてるし」
俺らも負けてられねーな、という言葉に頷きながら、俺はまだ走っている団体を見つめていた。
水谷、いないのかな――――――――…
あのふわふわな髪の毛は、見たら一発で分かると思うのに。
なかなか諦められなくて何回か最初から最後まで目を凝らす。
「栄口?」
泉の声に、我に返って振り返ろうとした時だった。
ーーーーーーーーーー 、
カチリと、目と目が合って。
それは一瞬なのかもしれないけれど時間が止まったのではないかと思うほど、長く感じた。
「みずたに!」
声を少し張り上げて呼んでみたけど、春の暖かい風が俺たちの間を吹き抜けてその言葉は通りに舞った。
I have an affair to talk about.