treasure(捧げもの)
□君に降る雪
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もう別れようって言い出した栄口の声はとても静かだった。
「いつまでも…こんなこと続けてる訳にはいかないよ……」
こんなことってなんだよ。
俺と栄口がつきあい続けることの何が悪いっていうんだ。
「俺のこと好きなのに別れるの?」
別れるのは俺のこと、嫌いになってからじゃないと無理でしょ。
「別れてもトモダチでいようなんて言わないよね?
俺はトモダチになんて戻る気ないから。
別れたらもうメールも電話もしない。
どっかですれ違っても、声もかけない。
野球部で集まっても目もあわさないし、笑いかけもしないよ。
淋しくなっても抱きしめてあげない。
ーー別れるってそういうことだって、分かって言ってる?」
いい友達でなんていられなかったから、
友達以上を望んだから、
栄口に想いを告げて、その肌に触れたんだ。
ーー今さら、時間を戻せない。
俺の中にはもう友達の栄口はいない。
俺の言葉に栄口の顔が苦痛に歪む。それでも懸命に言葉を紡ぐ栄口は健気で可愛い。
「…っけど、別れなくちゃ…いけなっから」
『別れたい』って言われたって別れるわけないのに、『別れなくちゃいけない』なんてバカな理由で、俺が栄口を離すとでも?
堪えきれずに流れた涙を隠すようにうつ向く栄口のうなじに薄紅の痕。
あれは、いつ付けたヤツだっけ。一昨日は胸の上につけたから、その前…土曜の夜のかな。
栄口の受験が終わって、毎日学校に通わなくてもよくなってから、俺たちが体を重ねる回数は飛躍的に増えた。
前の口づけの痕が消えぬ間に、栄口は俺に刻印され続けている。
今日は別れるなんて言葉を口にした罰に、白く柔らかい内股にたくさんのキスの痕を残してやろう。
泣いて許しを乞うても、栄口が欲しがるトコロには唇で触れてやらない。
俺とつきあいだしてから栄口はよく泣くようになった。
それは、俺に気を許しているからとか、心を開いているからという甘い理由からではなくて(まぁ、多少はそれもあるかもだけど)、ようはストレスなんだと思う。
男同士で人目を忍んでつきあうということは、栄口の体と精神に多大な負荷を与えていて、それをリセットするために栄口は涙を流さずにいられないのだと、いつからか俺は気づいた。
ーー気づいてしまった。
不安定な心は些細なことで揺らぎ、そこにいっぱいいっぱいに溜まった液体はたちまちのうちに流れ出す。
泣きたいのならいつだって俺の腕の中で泣かせてあげるよ。
泣かせる以上に笑わせる自信があるから。
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