treasure(捧げもの)


□幸いなるかな天なる水
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「ふぁあ、やっぱり阿部のいれてくれるカルピスサワーは最高に美味しいねぇ」ってのゴクゴク喉を鳴らして飲んでるけど、それ、アルコール入ってねぇから。

シンクの横にカルピスとソーダ水のビン、紙パックの焼酎を並べたものの、栄口のあまりの出来上がりっぷりに単なるカルピスソーダを作ることに決めたのだ。

しなだれかかって揺れてくる栄口相手に俺はよく頑張った。

手元が狂って危うくカルピスを溢すところだった。


「ねー、なんで阿部のカルピスサワーが一番なんだろうねぇ」

「さぁ?単に飲み慣れてるだけじゃねーの」


と言いつつ褒められて悪い気はしない。

何回栄口のためにカルピスサワー作ってやったことか。好みの割り加減なんかもはや熟知している。


しかし俺の答えが不満だったらしく、栄口はダンッ!とグラスをちゃぶ台の上に置いた。


「違うでしょ!ソコは愛情こもってるから…って答えるとこでしょ!?」


目元を上気させてキッと睨んできたと思ったら、今度はふぇ〜と眉を下げて「阿部は酷いヤツだよぉ」と突っ伏した。


「俺は愛情込めて阿部のために飯作ってるのにぃいい……。阿部は違うんだぁああ」

「――言い間違えた。……俺がいれるカルピスサワーが美味いのは、俺のアイジョーがこもっているからだ」


限りなく棒読みで言ってやったのに、ムクっと起き上がると笑顔を見せた。


「えへへ〜、やだなぁ、阿部ったら、恥ずかしいヤツ」

「…………」


怒ったり泣いたり、笑ったり、お前は忙しいヤツだよ。


「でも、すきぃ。あーべ、好きだよぉ」

「……甘過ぎだっつの」


「えぇ〜、そんなことないよ〜」ってグラスに手を伸ばして、ゆっくりと味合うように一口飲んだ。


「……おいし。甘過ぎたりしないよ?」


とろんとした目で見つめてくる、お前が甘過ぎだっつの。


「阿部も飲んでみて、ね…」


ふわっと微笑んで、カルピスサワー(アルコール抜き)を口に含むと、濡れた唇を俺の唇の端に押し付けてきた。


「んっ…ふぁっ」


口移しで飲ますなんて不慣れな上に(栄口は飲まされるほう専門だ)、酔っ払って目測を誤ったまま注ぎこもうとしたもんだから、液体の大半は唇の端から零れてお互いの顎を伝い、胸元に流れていった。


――冷たい。


けど、そんなことはどうでもいい。


後頭部を押さえつけて唇を重ね直すと、緩く開いた隙間から舌を侵入させて、甘い口内を貪った。


「あ、べ……」


物足りないと言いたげに、唾液を引いて離れていく唇。



潤んだ瞳で艶に笑った栄口は俺の体を押し倒すと、首筋に顔を埋めてきた――。




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