treasure(捧げもの)
□Hand in hand
2ページ/3ページ
「そろそろ30分か……。意外にここって見つからないもんだな」
「3年生の教室かぁ」
呟いて、巣山の頬から栄口の指先が離れてくと、今度は巣山の手が包むように栄口の頬に重なった。
「そんな淋しそうな顔しなくても。3年になるのも卒業すんのもまだ先だから」
「でも、――まだ先って行っても、確実にそのときは来るし……」
この前入学したと思った俺たちが2週間もすれば2年生だ。
月並だけど、月日が経つのって本当に早い。
「だな。でも、俺たちは大丈夫だよ」
ゆったりとした巣山の声は同学年とは思えないほど力強く、安心感を与えてくれる。
この坊主頭は野球部ばかりでなく、クラスの連中からも一目置かれて、頼りにされているんだ。
「栄口には俺がいるし。俺には栄口がいる」
「――うん。そうだね。巣山がいれば大丈夫だよね」
ニコリと笑って眩しげに巣山を見上げる栄口の額に、ふっと微笑みを返した巣山の唇が降りた……なんて、俺の見間違いだな、きっと。
はは…。
春だねぇ。
――何してんだよ、工藤は。
早く、見つけに来いつーの!
「3年になる前に、2年になるのが先だぞ。修学旅行とか、楽しみだな」
野球部二人でまた同じクラスになって、修学旅行先でもナチュラル〜にいちゃつく気だな。
そんなことを考えた俺の耳に届いたのは、
「1組のみんなと行けたらいいのにな」
栄口のやわらかい声と、
「1組、最高だったな」
しみじみと落ち着いた巣山の声。
「練習とか試合でクラスのイベントに協力できなかったり、参加できないこともあったけど、みんな優しかったよね」
それはお前らが朝に夕に練習に励みつつ、限られた時間でできることを引き受けてきたからだろ。
「体育祭にも文化祭にもかける情熱が半端ないのな、1組って」
「あの団結力と盛り上がりはどこからくるんだろうね」
「君島とか工藤のお気楽お祭り人間に引きずられて、みんなが予期せぬパワーを発揮するんだって、委員長が言ってたぞ」
工藤はともかく俺ほどの苦労人を捕まえてお気楽お祭り人間とは、何を仰る委員長。
その口ぶりじゃあ、お前もそう思ってんだろ、巣山。
「ふふ、委員長よく見てるね。さすが春からの生徒会副会長だ」
ジーザス。栄口は本当の俺を分かってくれてると思っていたぜ。
「けど、あいつらがいたから、野球以外でも充実した一年だったよな」
「うん」
よせやい、照れるじゃないか。
急性の花粉症にでもなったのかな、俺。
鼻がムズムズして、なんだか涙が出そうになった。
「――工藤、何人くらい見つけたんだろ。奢ってもらうの、悪いかな」
栄口は優しいなぁ。
「勝負ごとだし、それは気にしなくてもいいだろ」
巣山とは大違いだ。
「けど、……そうだな。君島には今度なんか奢ってやらないとな」
へ?なんで俺だけ?
巣山は顎に手をやり何やら思案すると、視界を奪うように栄口の丸い頭を胸に抱き込んで、ゆっくりとこちらを向いた――。
.