treasure(捧げもの)


□Hand in hand
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「そろそろ30分か……。意外にここって見つからないもんだな」

「3年生の教室かぁ」


呟いて、巣山の頬から栄口の指先が離れてくと、今度は巣山の手が包むように栄口の頬に重なった。


「そんな淋しそうな顔しなくても。3年になるのも卒業すんのもまだ先だから」

「でも、――まだ先って行っても、確実にそのときは来るし……」


この前入学したと思った俺たちが2週間もすれば2年生だ。

月並だけど、月日が経つのって本当に早い。


「だな。でも、俺たちは大丈夫だよ」


ゆったりとした巣山の声は同学年とは思えないほど力強く、安心感を与えてくれる。

この坊主頭は野球部ばかりでなく、クラスの連中からも一目置かれて、頼りにされているんだ。


「栄口には俺がいるし。俺には栄口がいる」

「――うん。そうだね。巣山がいれば大丈夫だよね」


ニコリと笑って眩しげに巣山を見上げる栄口の額に、ふっと微笑みを返した巣山の唇が降りた……なんて、俺の見間違いだな、きっと。


はは…。

春だねぇ。


――何してんだよ、工藤は。

早く、見つけに来いつーの!


「3年になる前に、2年になるのが先だぞ。修学旅行とか、楽しみだな」


野球部二人でまた同じクラスになって、修学旅行先でもナチュラル〜にいちゃつく気だな。

そんなことを考えた俺の耳に届いたのは、


「1組のみんなと行けたらいいのにな」


栄口のやわらかい声と、


「1組、最高だったな」


しみじみと落ち着いた巣山の声。


「練習とか試合でクラスのイベントに協力できなかったり、参加できないこともあったけど、みんな優しかったよね」


それはお前らが朝に夕に練習に励みつつ、限られた時間でできることを引き受けてきたからだろ。


「体育祭にも文化祭にもかける情熱が半端ないのな、1組って」

「あの団結力と盛り上がりはどこからくるんだろうね」

「君島とか工藤のお気楽お祭り人間に引きずられて、みんなが予期せぬパワーを発揮するんだって、委員長が言ってたぞ」


工藤はともかく俺ほどの苦労人を捕まえてお気楽お祭り人間とは、何を仰る委員長。

その口ぶりじゃあ、お前もそう思ってんだろ、巣山。


「ふふ、委員長よく見てるね。さすが春からの生徒会副会長だ」


ジーザス。栄口は本当の俺を分かってくれてると思っていたぜ。


「けど、あいつらがいたから、野球以外でも充実した一年だったよな」

「うん」


よせやい、照れるじゃないか。

急性の花粉症にでもなったのかな、俺。

鼻がムズムズして、なんだか涙が出そうになった。


「――工藤、何人くらい見つけたんだろ。奢ってもらうの、悪いかな」


栄口は優しいなぁ。


「勝負ごとだし、それは気にしなくてもいいだろ」


巣山とは大違いだ。


「けど、……そうだな。君島には今度なんか奢ってやらないとな」


へ?なんで俺だけ?


巣山は顎に手をやり何やら思案すると、視界を奪うように栄口の丸い頭を胸に抱き込んで、ゆっくりとこちらを向いた――。



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