parallel


□Heven's room
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栄口のベットは気持ちがいい。

なんの変鉄もない、男二人には窮屈なただのシングルベッドだってのに。

取り替えられたばかりの淡いグリーンとブルーの水玉模様のシーツの上、仰向けの体勢から寝返りを打つと、枕から微かに栄口の髪の匂いがした。


アイツ、いつまでシャワー浴びてんだよ。

早く、来いつーの。


どんだけ時間をかけて全身を洗ったところで、石鹸の香りのする肌を俺がそのままにしておくわけがないって分かってんだろうに。

きっとこのシーツも二人の汗と体液でぐしょぐしょになるに違いない。


(明日……洗濯機回して、掃除機も掛けてやっかな)


どうせ、栄口は腰の痛みに家事どころじゃなくなってるだろう。


「2週間、か……」


栄口が教育実習のため実家に戻って母校に通っていた時間は予想以上に長く感じられた。

思えば、高校での三年間プラス同じ大学に進学して、二人で一つの部屋を借りて過ごし初めてから、こんなにも長い栄口の不在は初めてだった。

栄口の顔を見れない日々は俺の日常を心もとなく、不安定なものにした。

いくら電話で話しても、メールのやり取りをしても、おさまらない感情。


『なぁ、帰ったら、めちゃめちゃ抱いてい?』


一応の許可を求めたのは、電話で話している途中で栄口が眠ってしまうことが多くなってきた、実習も終わりに差し掛かってきたころ。

淋しいとか、恋しいとか言うのは柄じゃねぇし。

実習の前から寝る間も惜しんで資料作りに励んでいたのを見てるのに、『早く帰って来い』なんて言える訳もなく。


『な、なんだよ、突然』


高校時代によく行ってたラーメン屋、熊五郎の大将が餃子をサービスしてくれた話をしていた途中に、そんなことを言われるとは思って居なかった栄口の声は裏返っていた。



『いや、別になんでもねぇ』

『なんでもないって台詞じゃなかったけど……。ーーーーいいよ』

『ーーいいんかよ?』

『まぁ……できれば……めちゃめちゃ、よりは…優しく、がいいけど……』


小さな、耳がくすぐったくなるような恥ずかしげな声だった。





実習を終えて帰ってきた栄口に早く会いたかったけど、あいにくと俺はバイトが入ってて。

10時過ぎに部屋を訪ねて、やっと再会できたときには、久しぶりの笑顔に泣きそうになった。


「ただいま、阿部」


抱き締めた躯は記憶より細くなっていて、戻ったら朝まで離してやんねー、など考えていた自分が恥ずかしくなった。


「疲れただろ、栄口。ゆっくり休めよ」


俺のこの腕に帰って来たのなら、それでいい。

明日から三連休で、バイトは半日しか入れてない。時間はたっぷりある。

栄口と一緒に過ごせるだけで幸せなんだと、俺はこの2週間で痛いほど理解したんだ。

もう一晩くらい独り寝でいい。


「帰ってから、さっきまでずっと寝てたから大丈夫だよ。冷蔵庫にお土産入ってるから食べてて。シャワー浴びてくる」

「いや、でも…」

「あ、阿部、先にシャワー使う?バイト、忙しかった?」


栄口の優しい気遣いが愛おしくて、暴走しないようにブレーキを踏みながら唇を重ねた。





「んっ、あべ…」


濡れた唇から漏れる声に後ろ髪を引かれながら、絡めていた舌を解く。


「ーーわりィ、今日はこれで止めとくな」

「え……、」

「お前をゆっくり眠らせてやらないとな」

「ーー俺はもう眠くないよ。一晩中でも起きて……阿部に顔を見てられるよ」


目元を染めた栄口に「2週間ぶりに会えたのに、もうおしまいなの?」って言われて、めちゃめちゃ優しく愛してやろうと思った。


会えなかった時間をベッドで埋める前に、どうしてもシャワーを浴びたいと言う栄口に「一緒に浴びて洗ってやろうか?」と提案すると「それは遠慮する」と断られたけど、まぁ、よしとしよう。

シャワーで疲れさせるのも可哀想だ。





栄口の気持ちのいいベッドに横たわって、壁際を向いたまま、右手を伸ばす。

栄口の頭の定位置はこの辺。

俺の左側にくっついて、胸の鼓動を聴きながら眠りに落ちていく栄口を思い出し、やわらかい髪を撫でるようにシーツの上で手のひらを滑らせるーー。





雨音のようなシャワーの音を聞きながら、

栄口と過ごすこの部屋が俺にとっての天国なのだと思った。





* * *


よろしければHeven's bedもどうぞ。

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