short・巣栄
□風立ちぬ
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「うわぁ、ほんと、風通るねー」
栄口を連れて来たのは特別教室棟の二階の美術室前の人気のない廊下。窓の下がプールになっているんで、吹いてくる風もいくらか冷たい気がする。
「ありがとう、巣山」って、にっこり笑う栄口の、風に揺れる短い前髪。
その髪に触れたいと思う、俺は変なんだろうか。
「俺の席って、窓際で日差しがキツいから、風が吹かないと暑くてやってらんないだよ」
「そっか、よく窓の外見てっから、窓際の席が好きなのかと……」
語尾が小さくなったのは、窓の外を眺めている栄口を見ている自分を知られたくなかったからだけど、栄口は俺の言葉を気にした風でもなく、「残暑が厳しくないといいなぁ」と言った。
「来週のLHRで席替えだろ」
窓際の席に座って、ぼんやりと中庭の緑や空の雲を見る、少し大人びた栄口の顔を見るのが好きだったけど、仕方がない。本人が違う席がいいと言うのなら。
「席替え……イヤだな」
ぽつんと呟く栄口。
「あの席、嫌いなんじゃねぇの?」
「好きだよ。巣山の隣の席だもの」
ほんの少し赤くなって答える栄口の言葉に、風に冷やされたはずの体温がまた上昇する。
「俺ね、午後の授業のとき、必死に欠伸噛み殺して、涙目になってる巣山を見るの好きだったりする……」
恥ずかしそうに笑う栄口の前髪を風が撫でていく。
誘われるように手を伸ばして触れた栄口の茶色の髪は想像以上に柔らかくて、栄口が何も言わないのをいいことに、俺はしばらくその手触りを楽しんだ。
………………………
恋人未満の巣栄書くのって楽しい〜(^o^)
(秋の気配が漂う話の予定が、夏の名残の話になってしまいましたが)
そして、またも巣山に撃退される水谷。
も、君、どんなに頑張っても、勝ち目ないから。大人しく7組に引っ込んでなさい。