short・その他


□秋が来て君は眠る
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「栄口、もっとこっちへ来いよ」


シングルベッドは男子高校生二人には狭い。お袋は俺のベッドの横に栄口の布団を用意してくれてるけど、俺ンちに泊まった栄口がそれを使ったことはない。何故なら、栄口と眠るベッドの窮屈さを気に入っている俺が、いっつも栄口をベッドに引っ張り上げるから。

遠慮して端っこに寄ってる栄口の肩を腕を伸ばして抱き寄せると、クスクス笑って「やだよ」って、言いながらくっついてきた。


「こないだみたいにくすぐるのはなしだよ、泉」

「おめーがちゃんと笑ってたら、くすぐったりしねぇよ」


水谷はいとも簡単にお前を幸福そのものの笑顔にさせてやれるのに。

俺にはくすぐって無理やり笑わせるしかなくて。



ーー誰よりも栄口を泣かせて、誰よりも綺麗に栄口を笑わせるのは水谷なんだ。


アイツ、まじ腹立つ。


頬に触れる栄口の短いけどやわらかい髪。

同じシャンプーを使ったはずなのに、俺とは違う香りを胸に吸い込む。

ふふっと笑って「なに?」ってますますくっついてきたから、ぎゅって真ん丸い頭を抱え込んだ。


「好きだぜ、栄口」

「ありがと。俺も…泉が好きだよ」


けれど、心(……と体もか)を捧げたのは、俺もお前もただ一人。


「水谷なんかやめとけ」と出かかった言葉をなんとか飲み込んだ。


「俺はすっげー、栄口のこと好きで、誰よりも何よりも大事に思ってるから。淋しくて泣きたくなったらいつでも俺を呼べよ。全力で駆けつける」

「……浜田さんは?」

「あ?比べようがないな。あいつと栄口が乗ったボートがひっくり返ったら、迷うことなく俺は栄口を助けるね」


俺の言葉にふんわりと笑う栄口。


今日はよく笑って……その笑顔がなんだか俺を不安にさせる。


「それは泉が浜田さんを信頼してるからだよ。浜田さんなら自力で泳いで岸までたどり着くって」

「……」

「俺はダメだ……。どんなに浅瀬でも、救命胴衣つけてても、水谷が乗ってるボートが転覆したら、助けようと飛び込んで、挙げ句二人の命を危険にさらすんだ。水谷も溺れちゃうって分かってても、きっと俺は、水谷を掴んだ手を離せない……」


俺の胸に顔を押し当てて、栄口は震える指先でシャツを掴んだ。

まるで溺れているのは栄口で、手の中の布切れを手離したら水底に沈んでしまうとでもいうように。



「怖いんだ……泉」



胸元にじんわりと沁みてくる栄口の涙。



ふと甘く狂おしい金木犀の香りがしたようで、俺は栄口を抱く腕に力を込めて、瞳を閉じた。







今夜は眠れそうもないな、と思いながら。










* * *


一応、終わりにしていいものか……。

少しだけ考えた続きの栄口くん視点は暗いんだよ〜。


……………


「俺の誘いは断って、泉ンちに泊まりに行ったんだ」

「それは…っ」

「俺、栄口がなに考えてるか分からないよ。ーー本当に俺のこと好きなの?」



心臓に杭を打たれたようだったーー。


………………


みたいな。

栄口くんが可哀想だから書けないや。

泉と栄口くんがベッドでイチャイチャしてるとこは書いてて楽しかったー(*^^*)

 
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