short・その他
□頑張ったんだな
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「た、田島…っ?」
「キスしたい。キスさせて、栄口」
「え、ちょ…、たじ…っ、んン!」
久しぶりに触れた栄口の唇はほん少しカサついていた。ペロリと舌先で舐めると、うっすらと唇を開いて、俺の舌を口内に迎え入れてくれる。
それが嬉しくて、歯列をこじ開けるように舌を捩じ込んだ。
「あっ、ンぁっ」
鼻に抜ける甘い声に、優しくしなきゃなんて気持ちが消し飛んでいくのが分かったけど、もう止まらねー。
栄口の舌を捕らえて、自分のものと絡ませる。強く吸い上げると、ビクンと跳ねる細い肩。
溢れてくる唾液は俺と栄口のどっちのものだろう。
じん、と腰から生まれて脳に到達する、痺れるような感覚をきっと今、二人で分けあってる。
「ふっ…、ぁん……」
もがくように抗う素振りをみせてた栄口が、やがてクタリと体を預けてきた。たぶん無意識で俺に応えてる、舌と唇。
「はぁ…、っん」
明らかに快楽を感じている吐息と、紅潮した頬。閉ざされた瞼の下の瞳は、きっと潤んでいるんだろうと簡単に想像がつく。
栄口、キスされるの好きだもんな。
気持ちよさそうに弛緩した体から立ち上る色気。それを引き出したのが俺だという満足感の一方で、まだ足りねーって飢えるものがあって、結局、もっともっとっていう要求のほうが遥かに上回って、俺は栄口の唇を、舌を、粘膜を、存分に味わうことにした。
あむあむと舌を噛んでやると、ビクビクと腕の中で震えて、艶っぽい啼き声があがる。自然と抱きしめる腕の力が強くなった。
――俺だけが知ってる栄口。
激しくなる口づけに、栄口の目尻から一滴、涙がこぼれ落ちていった――。
深く長いキスのせいで息がつらそうな栄口に気づいて、ようやく唇を離す。
「はふっ…」
うるうるした目を開いて、わななくように新鮮な空気を吸い込もうとしてる。
「わりぃ、大丈夫か?深呼吸して」
「はっ、はぁ、は…っ…、……なわけない、だろ」
荒い息の合間に栄口が言葉を紡ぐ。
「何?なんつったの?」
背中を撫でてやりながら聞き返すと、涙目でにらまれた。
(栄口、色っぽいぞ、と言ったらきっと真っ赤になって怒るよな?)
「大丈夫なわけ、ないだろ。あんな……キス…して」
だんだんと声が小さくなって、フイって横を向かれた。
「わりかったよ。ごめんな、栄口。疲れてるのに無理にキスして」
「……」
「……そろそろ帰るか?」
いつもなら、"あんなキス"の後は時と場所を選ばず、押し倒してるところだけど、ぐっとガマンした。
栄口が好きだからこそ、しなくちゃいけないガマン。
疲れてる栄口にこれ以上疲れることをしちゃいけないよな。
(今日はキスまででガマンだ)
「……無理にキスされたなんて思ってない。俺も…田島とキスしたかった」
小さな声で、でも、はっきりとそう言って、こっちを向いた栄口。
「全然大丈夫じゃないキスしといて、帰るかなんて聞くなよ」
目元を染めて「田島のばか」だって。
俺はいろんな奴からバカって言われっけど、栄口以外の誰もそんな、甘くとろけるように「ばか」って言わねぇぞ。
愛情、こもってるんだよな。
栄口の「ばか」には。
「いいんか?栄口が疲れてんなら、俺、頑張ってガマンすっから」
今の状態で続きをしたら、加減なんてできねぇぞ。
「……そんなのしなくていい」
「栄口……」
コトンと肩に額がのっけられた。
「ねぇ、田島。俺、疲れて甘えたい気分なんだけど?」
それで俺は頑張ってガマンするのをやめて、栄口をいっぱい甘やかして、気持ちくしてやることにした。
そしたら、「抜かないまま、二度も中に出すなよ」と意識を取り戻した栄口に怒られた。
栄口が可愛かったから頑張りすぎた、と謝ったら頬を染めて「ばか」つって、許してくれた。
栄口の家まで送っていく帰り道。
いつのまにか空に浮かんでた、でっかくて真ん丸いお月様に、俺も栄口も頑張ったんだなって思った。
* * *
いや本当は、付き合いだしたことによって、田島は相手のためにガマンすることを覚えて、栄口くんは一人でガマンしないことを覚えて、二人とも頑張ったんだね、ってお話になるはずだったんですよ。
ガッツリキスシーン書いただけのお話になってしまったような……。
→オマケ(微裏)