short・その他
□Snow day 前編
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AM 7:35 阿部 隆也
いつも栄口と合流する通学路の交差点。
今日は青信号を三回見送っても、まだ茶色の頭が見えなくてーー。
俺は普段どおりに家を出て、いつもと同じ時間にこの交差点に着いたはずなんだが……。
「先に行っちまったのか…?」
別に約束してる訳じゃねぇけど、ここで朝の挨拶を交わして二人で自転車を並べて走らせるのが習慣なのに。
伸び上がって栄口が自転車を走らせて来る方向を見る。求める人影はーーない。
「まさか、事故……っ」
慌ててポケットからケータイを取り出して、栄口の番号を呼び出す。発信ボタンを押そうとしたとこで、「阿部ぇ」とよく通る声がした。
キィーって、ブレーキの音がして俺の横で自転車が止まった。
「っはよ!ごめんな、遅くなって」
いつもと変わらぬ笑顔にホッとする。
「今日寒くなるって言ってたから着込んでたら遅くなった」
「あー、なんか雪降るとか言ってたな」
元が細いんで着ぶくれているようには見えないが、ニット帽で耳まですっぽり覆って、マフラーに顎を埋めた様子は、寒気の入り込む隙間は無さそうだ。
なのに、くしゅんとくしゃみを一つ。
「風邪かよ」
「いや、体調は悪くないよ。ごめんな、待たせて」
「別に……、待ってなんかねぇし」
「そう?」
栄口の視線がチラッと俺の足元に下りた。
俺は黙って自転車に跨がった。わざわざ自転車を降りるほどの時間栄口を待ってた訳じゃねぇ。たまたまだ。
「行くぞ」
「うん。ーー阿部、ありがとな」
(だから、お前のこと待ってなんかねーっての)
北風に向かって自転車をこぎ出す。
(ただ、栄口と一緒の方が暖かいような気がすんだよ)