long・水栄
□仮初めの恋人 1
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side:水谷
……
強すぎる快楽はときに辛いものであるらしく、栄口は眠りの中に逃げるように意識を手放した。
頬に残る涙を拭って自己嫌悪に陥る。
こんなふうに栄口を泣かせたいわけじゃない。
自分本位に揺さぶって、無理矢理感じさせて。
自分と同じ場所まで堕ちてこい、だなんて。
――アイツは、そんなこと思いもしないだろう。
身勝手な奴だけど、こんなドロドロとした欲を栄口に対して抱くことはないだろう――。
ダメだ、と思考にブレーキをかける。
ただでさえ滅入っているときに、アイツのことなんか考えたくもない。
俺はノロノロと躯を動かし、栄口の躯を拭いてやる。
俺の唾液にまみれ、中に欲望をぶち撒けられても栄口は綺麗なままだ。
優しく、凛として、脆く、傷つきやすい。
なのに、
自分が傷つくことより、他の誰かを傷つけることを何より恐れている。
「傷つけられたと思うから傷つくんで、俺は傷つけられたとは思ってはないから、平気。大丈夫だよ」
そう言って君は綺麗に笑ったけど。
そんな「大丈夫」なんて壊してやりたいのに。
知ってる?
涙には浄化作用があるんだって。
だけど俺は栄口を素直に泣かせてやることもできない。
泣けない栄口が溜め込んだ涙のプールで溺れるのを見ていることしかできないなんて。
どんな罰ゲームだよ。
クソ…っ。
気分が悪い。吐きそうだ。
俺は栄口に布団を掛けてやるとズルズルとベッドに寄りかかった。
いつもはギュっと強く抱き締めて、あどけないと言っていい、栄口の寝顔を見ながら眠りにつくけど。
――今夜は栄口を見ているのがツラい。
隣で眠る資格が俺にあるんだろうか――。
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