long・水栄
□仮初めの恋人 2
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side:栄口
……
俺が声を出なくなったのは水谷のせいじゃない。
水谷は「昨日俺が無茶したからだ」って、責任感じて「ごめんね、栄口」って何度も謝ってきたけど、悪いのは俺なんだ。
俺は狡い人間だ。
水谷に隠していることがあるし、阿部についた嘘もそのままにしている。
(どっちも自分が傷つかないために必要だった)
(なのにときどき泣きたくなるなんて、自分勝手にも程がある)
汚ない自分を水谷に知られたくない。そのためにこれからも隠しごとをして嘘をつく。
真実を告げぬ声に何の価値があるんだ?
人魚姫が綺麗な声と引き換えに二本の脚を得たように、俺はこの声と引き換えに水谷を手に入れられるならそれでいい。
ごめん、水谷。
お前は泣き出しそうなほど、声の出ない俺を案じてくれてたのに。
俺にはその心配してくれる声が、見守る目が、心地いいんだ。
罪悪感からでもいい、側にいて。
俺を置き去りにしないでくれ。
俺はもう独りではいられない。
水谷……すき。
ほら、声に出さなくても、見つめれば水谷は正しく理解して、ぎゅっと抱きしめてくれる。
目を閉じれば、優しいキスを与えてくれる。
深くなっていく口づけを彩る声はなくても、俺は水谷を感じて満足していた。
でも、
どこで、
なにが狂ったんだろう。
春雷の鳴り響いたあの日から、俺はどこで何を間違えたんだ。
『友達のままでいいから』
阿部と二度目のキスをしたのは梅雨入りして間もない頃だった。
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