short・ 阿栄
□Sweet heart 4
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ベッドのヘッドボードにもたれて待っていると、「待たせてごめんね」と丸い盆にハチミツレモンの入ったマグカップと、うさぎにしたリンゴを並べた皿をのせて栄口がやって来た。
「熱いから気をつけて」って湯気立つマグカップを渡そうとした栄口に「じゃあ、冷ましてくれよ」と言うと「氷、いる?冷たいほうが良かった?」と小首を傾げた。
「フーフーして」
真顔で言うのに苦労した。
「はぁああ?」
「お前が、フーフーして冷ましてくれよ」
「なっ…、」
「喉、痛ぇんだけど」
喉に手を当てて訴えると、栄口は「それぐらい自分でできるだろ」と言いながら、両手でマグカップを持つと唇を尖らせて、フーッ、フーッと息を吹きかけた。
立てた片膝に頬杖をついて、臥せた睫毛とか、上気した頬だとかを眺めた。
「……はい、たぶんもう大丈夫なはず」
身を乗り出してマグカップを差し出す栄口の手に自分の手を重ねて口許まで誘導する。飲ませて?と目で告げると「自分で飲めよぉ」って、眉をハの字にしてたけど、ゆっくりとカップを傾けてハチミツレモンを飲ませてくれた。
「ん、うまかった」
「……そ、ならまぁ……いいけど」
コトとマグカップが盆の上に戻される。
「リンゴ、食べる?」
「あーん」
目をつぶって口を開ける。
「あ、阿部?どうしちゃったんだよ」
「なにが?」
目を開けると困惑した栄口の顔。
「……変だよ」
「俺、全然食欲なくてさぁ、栄口が剥いてくれたリンゴなら食えそーなんだけど」
「ーー分かったよ。…あーん」
栄口の手から食べさせてもらううさぎリンゴは冷たくてしゃりしゃりしてて甘酢っぱかった。
つーか、耳の縁をピンク色に染めた栄口こそうさぎみたいだぞ。
お前、人には散々「あーん」なんておねだりしといて、自分のときは照れんなよ。
まぁ、その恥じらってるのがイイんだけど。
俺は必死で頬の筋肉を引き締めていたが、ポロっと「うさえぐち……」という言葉が口をついて出てしまった。
「えっ、」
「……いや、なんでもねぇ」
ただ、何となく浮かんだだけの言葉だ。二度言うのは、俺も恥ずかしいからパス。
「リンゴ、もういいから。サンキュ」
「うん……」
「一昨日、見舞いに来てくれたんだってな。ワリかったな。俺、寝ちまってて。なんで起こさねぇんだよって、シュンの奴、怒っといたから」
「連絡もしないで寄った俺が悪かったんだよ。寝てるなら起こさないで、って俺が言ったんだ。怒ることなかったのに。ーーシュンくん、ジュースとお菓子出してくれたよ」
「シュンが?」
アイツ、栄口を家に上げたなんて一言も言わなかったぞ。
「喉が痛くて声出すの辛そうだから、電話はやめておいてあげてって、お兄さん想いのいい子だよね」
それで栄口からはメールしか来なかったのか。
アイツ、誰に似たんだ、姑息なことして俺と栄口の仲を邪魔すんなってーの。
(今晩、ぜってー絞める)
「ごめんね、昨日は見舞いに来れなくて。でも、良かった。元気そうで」
ちょっと変だけどって、しっかり付け加えるのを忘れないのが栄口らしい。
「あーでも、なんか疲れたかも」
「え……、大丈夫?ちゃんと布団かぶって横になりなよ」
たちまち顔を曇らせて、心配そうに顔を覗き込んできた。
「寝る?俺もう帰ったほうがいいかな」
なにバカなこと言ってンだよ。
「帰んな。ーー隣に来て一緒に寝て」
「〜〜っ、阿部ってば、さっきから何言ってるんだよ。やっぱり熱あるんじゃない?風邪引いたら甘えたくなるタチとか言わないよね!?」
「風邪引いたからじゃなくて、お前に会えなかったから、淋しくて甘えてンだけど?」
真っ赤になっていく栄口を抱き寄せてベッドに引き上げる。