short・ 阿栄
□桜の樹の下で
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今年もまた散り始めた花に心がざわめいて、
「栄口、桜の樹の下で待ってっから、部誌書き終わったら来いよ」
堪えきれずに吐き出した言葉に、ビクンとシャーペンを持つ手が止まった。
「阿部……?」
俺を見上げる、戸惑いと怯えに揺れる瞳。
「桜の樹ってどこのだよ、阿部。栄口は今日は俺と一緒に帰る約束してるんだけど」
部室の鍵を手にして頬杖をついてる水谷の目が険しくなった。
「栄口は俺と話があるんだ。ーーどこの桜の樹かは栄口には分かってる、……よな?」
「ーーっ、話なんて……」
ああ、確かにしたいのは話じゃないな。
俺はお前に触れたいんだ。
より近くで鼓動を感じて、熱く深く、俺の存在をお前に刻みたいんだ。
「……栄口は行きたくないみたいだけど?話があるならここで話すか、また今度にしなよ」
栄口の守護者さながら、水谷が口を出してくるのも、栄口が何も言わずにうつ向いてしまったのも気にくわない。
「栄口、俺は1年待ったんだ。お前も覚えてるんだろう。去年の春休みの、」
「やめてよ…っ」
泣きそうな声で遮ったのは水谷だった。
「俺だって、阿部よりも早く栄口と出会っていたら……!」
水谷が何を言おうと栄口を譲る気などない、俺はエナメルを肩に部室を出た。
「じゃあ……、待ってるからな、栄口」
願わくば、
夜目にも鮮やかに散り急ぐ花の下、お前を抱かんことを。
* * *
拍手に載せたときは水→栄←阿の表示にしたけど、これは水→栄→←阿だよねぇ。
栄口くん、桜の樹の下に行くかなぁ。
→おまけは部室に残された水栄
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