Setsuna think …
「おかえりなさい」
戸を開けると、寒空の下、大量の袋を持った、はるかとみちるがいた。
ただいま、と声をはもらせて玄関に入る。
「また…、ずいぶんと沢山買いましたね」
「ふふ、はるかの自腹よ」
ねぇ?と言うみちるにはるかは笑うだけだった。
ドサッと置かれた荷物をそろそろと除き込んでみる。
どうせはるかの衝動買い。
みちるに似合うかも。
ほたるに似合う。
これ便利そう。
そんなはるかの衝動買いは、実際役に立つから怒れないのだけど。
金銭面を考えないから、ちょっと惜しいところだ。
「はるかには、まだまだ働いてもらいませんとね」
「そうね」
ふふ、と笑った。
「一応言っとくけど、今日の買い物はみちるだよ?」
みちるからコートを預かり、自分のとみちるのコートをかけ終わって、はるかは言った。
「あら?今日は久しぶりにみちるが選んでよ、何て囁いたのは、どこのどなた?」
「僕だよ。」
「素直なこと」
ふふふ、と可笑しげに笑っているみちるを、満足気に見つめるはるかを見つめて……。
こんなみちるが見たいから、結果が沢山の買い物だなんて。
ザッと袋の取っ手を一度に掴んで、わたわたと荷物をリビングに運んだ。
「えっ、みちるあれ…」
「買ったわよ?ふふ♪」
珍しく語尾に音符なんかついて、みちるはニコニコ顔。
二人が買ってきた荷物を囲んで、衣装を見ていた。
赤い下地に、白文字でかかれたロゴ。いかにもしゃれた感じが漂う。
そんな袋から取り出されたのは、春の新作と思われる、柔らかい色の長めのシャツ。
…が二枚。
「これはみちるので?」
薄いピンクを少し持ち上げた。
「えぇ♪」
語尾に音符がついたままの、ご機嫌なみちる。
「いくらなんでも、同じ型の色ちがいを買いますか?どちらかにしていればよかったのでは?」
けっして、安いものではないのだから。
そんな瞳でみちるを見れば、色ちがいの青色の方を、はるかに合わせていた。
…というと…。
「いやぁね、せつな。私だって二枚も同じ型を買うなんてしないわよ?」
はるかに合わせられたシャツは、ピンクより少し大きめ。
「…ペアルック…ですか」
「ふふ♪」
「///」
再び音符が登場したみちるに、せつなは赤くなるのをごまかすため、ため息をついた。
恥ずかしいのか、さっきから一言も喋らずだんまりのはるか。
対照的に、ルンルン、ご機嫌真っ盛りのみちる。
「着るの…?」
「えぇ♪」
「……えと、例えばどこに?」
「公園かしら?」
具体的な妄想がみちるの脳内では働いているのだろう。
しどろもどろのはるかにハキハキと答える。
「どうしていきなりペアルックなんか?」
「さぁ…?」
みちるは、何故かパタパタと部屋を出ていった。階段をかけ上がる足音がかすかにする。
「朝からみちる、ご機嫌でさ。…朝からっていうか、昨日からかな?いきなり買い物行きたいっていうから。」
「ふふ、でも。素敵ですよ?青とピンク。スゴくお洒落です。」
「まぁね、趣味は良いから安心。」
肩をすくめるはるかに笑い、せつなにも買ってきたんだよ?と、エプロンやカーディガン等を袋からだした。
「似合うと思う」
「ありがとうございます」
せつなも新しい衣服が気に入って、ほたるの洋服について話していると。
カチャンとみちるが帰ってきた。
「見て…?」
はるかとせつなの間に座ると、持ってきた雑誌を広げた。
「昨日かったやつ?」
みちるはコクンと頷いて、パラパラページをめくり、指差した。
「ここに……。ね?」
雑誌に載るは、ペアルック特集。
“大好きなあの人と、同じ時間・同じ場所・同じ服”
トントン拍子にまとまったキャッチフレーズに、はるかとせつなは納得した。
「明日の朝、この服きて公園にでも行きませんか?お嬢様?」
「えっ……」
ポンッと言う効果音がピッタリな具合な赤くなったみちる。
数秒後には、笑顔ではい♪と微笑んだ。
ほろり…とせつなは思う。
この場で、ちょっと私は除け者かしら…?
目の前で、いちゃいちゃするお二方を今更止める理由なんてないのだし、自分が立ち去れば良いのだ。
でも、もう夜も遅いのだし、ほっといたらこの二人、朝までイチャイチャラブラブ…するのであろうから。
そっと立ち上がってコーヒーでも飲むことにした。
そろりとキッチンに入ると、二人の存在は音声だけでしか分からない。
コーヒーメイカーの前でカチャカチャしつつ、なるだけ音声をシャットアウトした。
『似合うわ、はるか♪』
『ん、結構いいかも。みちるも来てみろよ?』
『私はいいわよ。』
『そんなこと言うなよ』
『キャア、はるか!もう!』
『ごめん、』
『明日のお楽しみよ、』
……シャットアウト…!
…は、結構難しいようで。
出来上がったコーヒーを片手にソファーに腰かけた。
ソファーに座ると、二人の存在を背中に感じることになる。
静かにコーヒーをすすりつつ、30分したら強制的に風呂に入らせて寝かさなくては、という義務感にかられた。
膝に置いた、二人が選んできてくれた洋服。
衣装に頓着していなかったせつなも、4人で暮らしはじめ、色んな買い出しをはるかとみちるが担当すると、お洒落になったと言われるようになった。
…金銭面は触れないでおくと、だが。
明日の朝ごはんで、早速エプロンを使いますかね、とコーヒーをすする。
『明日はとびきり早起きしようか?』
『張り切っちゃって。…ふふ♪そんなこと言っても、ぐっすり寝てるのはどなた…?』
『明日は特別だよ』
『あら、この前も…』
30分。
「お二人とも、お風呂沸いてますよ?」
入りますか?と聞いてるわりに、入ります、以外の答えを受け付けない強い言い方。
「入るわ♪」
「ありがとう、せつな」
ザッとだが、衣服を畳んで小さく固めると、二人は脱衣場に消えた。
はるかもみちるも、せつながキッチリ言ってくれるから、時間も何もかも忘れてニコニコできる。
そんなこと、せつなが気付いてないから本人に教えてあげないけど。
お互い、お互いが1番だった。
今は大切な家族がいることに少し安心できるのだ。
カチャン…、
明日洗おうとコップはそのまま流しに置いた。
コーヒーを飲んだら、やけにめが覚めて眠れそうにないけど、コンコンと自室に向かう。
二人が帰るまで、リビングで待って。
そして、お風呂を沸かして、少し待って。
思い返せば、やってることはまるで母親。
だけど、二人を愛しているのは本当だからそれでいいと思う。
きちんと構ってあげたいと思う。
その代わり……。
二人は代わりなんかじゃないと言ってくれるだろうけど…。
きちんと私が頭にいると言うことが分かればいい。
そう思い、せつなはエプロンをギュッと小さく抱き締めた。
そんな今日は三日月……。
『Neptune』の佳奈様よりいただいた9000hitリク小説です。
ラブラブはるみちを見守るプー様をリクしたのですが、まさに!まさにって感じで。
改めて外部家族はいいなぁ、と実感。
ペアルックと聞いて、スターズのあの二人を思い出してしまいました(笑
佳奈様、ありがとうございました!