∽NOVELS∽

□LOVE IN VAIN
1ページ/3ページ



この気持ちに気付いたのは、いつだったかな。
きっと、ずっと昔から気付いていたんだと思うよ。
でも、気付かない振りしてた。自分で自分に嘘ついてたんや。
だって、そんなの笑っちゃうよね。
…お前なら、きっと笑うよね。



【Love in vain】



「なあ、もうああいうの、やめてくれへんかな。」
徹平の重いつぶやきに、翡翠色の瞳がちらりと動いた。
「何が」
カメラの前とはうって変わって、ぶっきらぼうな物言いで彼は答えた。楽屋で寝そべるその姿は、スタジオにいるときとはまるで別人だ。

―さっきまで、あんなにニコニコしてたくせに。

最近二人でメディアに出演する機会が多くなり、徹平はそんな彼の営業振りが気にくわないでいた。別に、愛想を振りまくだけなら構わない。
けれど、どうしても我慢できないことが、ひとつ。
「だからさ、その、俺を酔わせてどうこうとか、キスしたいとか、…そういうネタ、もうやめて欲しい。」
彼は突然の言葉に沈黙した。
しかし、視線は徹平の目を捉えたままだ。
徹平が思わず視線をそらすと、すかさず彼は口を開いた。
「なんで。いいじゃんホントにそう思ったんだから。」
「思ってへんやろ。」
思わず言葉がとげとげしくなる。
「なんか、そういうの、凄いムカムカすんねん。やめて。」
「なんだそれ。」
半笑いの、呆れた声が返ってきた。それが、徹平の苛立ちをあおる。
「だって、気持ち悪いやろ、男にそんなん言われんの。」
「別にさ、確かにちょっとやり過ぎかもしんないけどさ、だからこそそんなマジにとられても困るんだけど。」
その言葉に、徹平はつい口をつぐんでしまった。
「そういうので喜んでくれる人もいるわけじゃん?我慢しろよ。俺だって本気でお前とどうこうしたいなんて思ってねえし。」
それは分かっていたことだった。分かっているからこそ、公然と嘘をつかれるのがもどかしいのだ。
「じゃあさ、お前は男に同じふうに言われたら、どない思う?」
「大歓迎よ。本気じゃなけりゃ、何でも。」
口論になったとき、彼はいつも自分の問いにちゃんと答えをくれる。けれどその答えはいつも、徹平の望むものとは違った。ふわりと、胸を締め付けるような答え。
そもそも、いま自分はどんな答えを求めて彼に問うているのだろう。
また黙り込んでしまった徹平を見て、彼は立ち上がった。
「まあ、じゃあ分かったよ。お前がそんなに嫌だっていうならもう言わねえよ。」
「え?」
そのまま整理してあった荷物を持ち、楽屋の扉へ向かう。
「帰んの?」
「ああ。」
「今日うち来るって。」
「自分ち帰るわ。」
「明日の映画、どうすんの。」
「明日さ、今田さんちの飲み会誘われてさ。お前一人で行きたいって行ってたじゃん。ちょうどよくね?」
そう言い捨てると、彼は楽屋の扉を強く開けて出て行った。
彼は、もう言わないと言った。これで、解決したはずだった。
今後はもう、もやもやすることも無い。
なのに、なんだか取り返しの付かないことをしてしまったような気がするのは、どうしてだろう。
わけも分からず彼を追いかけようとしたそのとき、徹平の電話が鳴った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ