∽NOVELS∽

□DREAMING
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ねえ徹平。
お前、俺のこと好きでしょ。



【DREAMING】



−どうしたもんかな。
瑛士は、狭いシングルベッドの上で、闇の中に問いを投げかけた。
布団に入ってからもう大分経つが、なかなか眠りにつくことが出来ない。
すぐ横にいる徹平は、とても静かだ。
だからこそ、眠れない。
徹平はいつも、眠ると暴れだすのだ。歯軋りに寝言、隣の人などお構いなしに足を投げ出す。
つまり静かな徹平は、起きているということ。



最初に気づいたのは2週間くらい前だったろうか。
その時も、瑛士は徹平の部屋のベッドに横になっていた。徹平がまだDVDを観ているのでなかなか寝付けず、しかし翌日は早く起きなくてはいけない。無理やりにでも寝ようと、壁に対面して目を閉じていた。
しばらくして、部屋の明かりが消えた。
徹平がもぞもぞとベッドに入ってくる。
−まったく、ひとの気も知らないで。
すこし、意地悪をしてやろうと思った。
くの字になって3分の2ほどベッドを占拠しているのに、瑛士は眠ったフリをして身じろぎひとつしない。
「瑛ちゃん、ちょっとつめて。」
俺は寝てるから聞こえないよ。
「瑛ちゃん、寝てる?」
寝てるってば。
心の中でだけ、答える。
ふと、耳たぶに冷たいものが触れた。
…徹平の指だ。
鼓動が早まった。ドキドキの奥で、かすかに揺れる甘い疼き。
ガマン、ガマン。
耳たぶの感触に少しくすぐったさを覚えたが、それでも瑛士は狸寝入りを続けた。
徹平はすっかりだまされているようで、耳たぶから手を離すと、瑛士を押すことなく空いたスペースにこじんまりと横になった。
なんだかそれが健気で、意地悪したことをちょっとだけ後悔した。けれど今さらつめる訳にもいかず、体がこわばって余計眠れなくなってしまった。
ふと、徹平が少しだけ体を起こした。
「瑛ちゃん、寝てる?」
もう一度、同じ言葉で呼びかける。
もしかしてばれてしまったのだろうか?それでも瑛士は規則正しい寝息を強調し、徹平の呼びかけを無視した。
すると。
身を縮めていた徹平が、瑛士の姿勢に沿って体を折り、そっと密着してきた。

―!

徹平は、瑛士のうなじの下辺りに額をそっと押し付けた。
手のひらは、背中に添えられている。
それはまるで、恋人に寄り添う少女のようで。瑛士は、見れずともその状況を理解した。
鼓動がさらに早まっていく。

―これって、やっぱり?

最近、徹平はなんとなくそんな片鱗を見せることがよくあった。
軽く手を握っただけでものすごく嬉しそうに顔を赤らめるし、やたらと瑛士のすることに興味を示す。そして、一緒にいるときはいつも瑛士を気にして、よく見ている。
それがとても可愛らしくて。
瑛士は、そんな徹平の自分に対する挙動が嫌ではなかった。
淡い期待。
徹平は、自分のことが好きなのではないかという、甘い期待。
その期待は、もはや恋愛感情に似たものであった。
けれど現実的に考えればそんなことあるはずがない。徹平は男なのだし、たとえ自分が徹平にそんな気持ちを抱いていたとしても、徹平も同じだとは限らない。
徹平に対しては、こんな「もしかして」がちょうどいい。淡くて甘い、片思いに似た妄想で、満足しているつもりだった。
しかし。

―これは、淡いどころじゃないな。

ほぼ確信に近かった。
動悸は最高潮に達している。このままでは、徹平に伝わってしまう。
けれどどうすることも出来ないし、徹平もそのまま動こうとしない。
仕方なく、体をこわばらせたままじっとしていた。
翌日の仕事がさんざんだったのは言うまでもない。
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