∽NOVELS∽

□Phrase
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キスを、した。
その日から、君は俺に触れなくなった。



深夜のファミリーレストランは客の入りもほとんどなく、ゆっくりするのにはうってつけだ。
瑛士と徹平は椅子にギターを置くと、ソファに並んで座った。
「何にする。」
「あー俺ね、和風ハンバーグがいい。」
瑛士が開いたメニューを見るまでもなく、徹平が答える。
「見ろよメニューを。ちゃんと選べ。」
「和風ハンバーグがいい。」
「あんの?ここ。」
「知らない。」
呆れて、瑛士は思わず笑った。
「だから見ろって。」
すかさず徹平の肩を抱き寄せ、メニューを見せる。
すると徹平は戸惑いの笑みを浮かべ、少しだけ、体を反対方向によじった。
瑛士の表情が、僅かに曇る。

−ナニソレ。
嫌がってるみたいじゃない?

「ねえよ、和風。」
つい放った、刺のある声。
腕の中のからだが、余計に強張った気がした。
「ほんまや。」
なんでもなさそうな口ぶり。

−役者だね。
でも俺はごまかせないよ。
君は、俺を警戒している。

「じゃあこれでいいや、イタリアンハンバーグ。」
「お前ハンバーグ好っきやな。」
瑛士も負けじと平静を装い、徹平の肩から腕を除けた。
途端に、ホッとした空気が漂う。

気に食わない。

「瑛ちゃん何食べんの?」
「俺も同じの。」
「ええ。」
「なんだよええって。」
「とりかえっこできないやんか。」
むくれた顔で徹平が言う。

−なんなんだよ、お前。

「いいだろ、俺も食いたいんだよ。」
「じゃあ俺やっぱりこっちにしよ。」
「勝手にしろ。」
また少し冷たい瑛士の言葉に、徹平が口をつぐんだ。
瑛士も、無言のまま、メニューを閉じた。
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