∽NOVELS∽

□LOVE IN VAIN
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翌日。
玄関の扉を開けると、眩しい日差しが一気に降り注いできた。
暖かく、穏やかな日だ。
久々の休日がこんな陽気でよかった、と思う反面、徹平は微かな寂しさも感じていた。
毎日、自分の横で四六時中「寒い、寒い」と喚いているあいつ。
今頃、家の中の陽のあたる場所で、猫と犬と一緒にひなたぼっこでもしているだろうか。

―こんな日に限って、隣におらんねんな。

ふとそんな事を思い、それを掻き消すようにぶんぶんと頭を振ってから家を出た。



いまだに六本木は慣れない。
この世界に入って、我ながら少しは垢抜けたと思うけれど、それでもまだ自分はこの街に似合わないと思っている。
徹平は辺りを見渡し、約束の相手を探した。

―あ、もう見つけた。

彼は、そこにいても違和感がない。寧ろそのすらりとした長身は、そこにいる誰よりも華やかだ。
「もこちゃん」
徹平の声に、大きな体が軽やかに振り向いた。
大きな口が、にこりと笑う。
「よう、久しぶり。」
「待った?ごめんね」
「俺も今来たばっかり。」
彼はちゃんと約束の時間を守る。なんであいつは、そんな当たり前の事が出来ないのだろう。
目の前で笑っているもこみちとあいつをつい比べてしまい、徹平はなんだかとてももどかしくなった。
そんな気持ちを押し込めるように、会話を続けた。
「どこ行こうか」
「俺、この前いい店見つけたよ」
「お。じゃあ、そこ連れてってよ」



もこみちに連れられてやってきた店は、薄暗い照明の灯る小洒落たダイニングバーだった。
個室に入り、もこみちは早速二人分の酒を頼む。
「もこちゃん、俺、酒は…」
「いいじゃん。二十歳になったんだろ。お祝いしようよ、せっかくだし」
「…うん」
運ばれて来たカクテルで乾杯し、いつものように互いの仕事の話で盛り上がる。
暫くして、意外な話題が持ち上がった。
「でさ、そいつゲイなんだけどさ」
もこみちの言葉に、徹平は何故か過敏に反応してしまった。
「え、もこちゃんゲイの友達いるの?」
もこみちはその反応に軽く驚いた。
その返事を待つことなく、徹平は問い続ける。
「どんな感じ?」
「どんなって?」
「その…もこちゃん的に、ええと」
「恋愛対象として意識されてるかって?」
「そ、そう」
言いづらかった言葉があっさりと相手の口から発せられ、徹平は少し焦った。
「なんで?」
「ああ、ちょっと気になっただけやから、別に嫌なら言わんでもええよ」
「気になるの?」
もこみちの口調が、少し変わった。
笑みを含んでいるようで、それが徹平の焦りを煽る。
「ええと、ほらもこちゃんてそっちの方にもモテそうだからさ、もし好きになられたらどんな感じかなあ、なんて」
「…うん、悪い気はしない」
「…え。」
軽い驚きに、間抜けな声が漏れた。その顔が、心なしか嬉しそうな表情を浮かべていたことに、本人は気付いていない。
「そうなんや」
「人によるけどね」
「そりゃね」
もこみちが、くすりと笑った。
「徹ちゃんだったら普通にありだけど」
ドキリ、と心臓が跳ねた。あからさまに動揺が顔に出ている。
何か、何か言わなくては。
「じょ、冗談」
「徹ちゃんなら、分かると思うよ。この気持ち」
「な、何言うてんのもこちゃん。俺、そういうの、ちゃうし」
もこみちは、大げさな身振りで否定する徹平から視線をはずした。
そして席を立ち上がると、徹平の横に腰を降ろした。
「おもいっきり慌ててるじゃん。徹ちゃんてすぐ顔に出るよね」
徹平の顎に手をかけ、ぐいと自分の顔に向ける。
「かわいい」
徹平はすぐに顔をそらした。
「も、もこちゃん、酔っ払ってんの?」
「全然」
もこみちは再び徹平の顔を自分に向けると、すかさず唇を重ねた。

「…!」
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