∽NOVELS∽

□the LONG KISS
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すっかり冷え切った夜道は、慣れない酔いを醒ますのにうってつけだった。そして、ごちゃごちゃの頭を整理するのにも。いい具合に酒が回り、妙に頭が冴えている。
今日、徹平はどうしただろう。一人で映画にいっただろうか。
昨日の去り際の、少し悲しげな彼の表情を思い出し、少し胸が痛んだ。

―あいつが悪いんじゃねえか。

そんなことを思いつつも、しかし手中の携帯電話はすでに徹平の番号をダイヤルしていた。
自分は徹平に甘いな、と思う。今日も飲み会に向かう前、あいつのために時間と金を使ってしまった。これで機嫌を直してくれるだろうか。それとも、そんなことすら今のあいつには迷惑だろうか。
手の中で、小さく呼び出し音が鳴り始めた。
なんと言おう。
とりあえず、謝るかな。
何事もなかったかのように明るく振舞おうか。
いっそのこと泥酔している振りをしようか。
…しかし、耳に当てたスピーカーから流れてきたのは、無機質な女の声だった。
『ただいま、電話に出ることができません。ピーっという発信音のあとに…』
小さく舌打ちをして、瑛士は携帯電話を閉じた。
かすかな胸の痛みが、また疼く。
ふと、居間田の言葉が頭をよぎった。
その言葉が今の自分の行動にぴったり当てはまるようでなんだか可笑しくて、少し自嘲気味に笑った。




翌朝。軽い二日酔いに悩まされながら向かったラジオ局に、まだ徹平の姿は無かった。
あいつが自分より遅くなるなんて珍しい。なにかあったんだろうか。一昨日の一件が関係しているのだろうか。一度悪い方向に考え出すと、どんどんネガティブになっていく。自分の悪い癖だ。
しかしそんな不安をよそに、徹平はひょっこりと姿を見せた。
「おはようございます。」
入ってくるなり、瑛士と目が合う。徹平はにこりと笑った。
「おはよ、瑛ちゃん。」
「…おはよう。」
瑛士はなんだか肩透かしをくらったような気がして、知らずに強ばっていた体が一瞬にして脱力した。
けれど、何かおかしい。いつもと少し違う、曇った笑顔。
瑛士は、その顔に見覚えがあった。
「徹平。」
瑛士の少し枯れた声に、徹平は振り返ることなく答えた。
「ん?」
こちらを向かないことが、よけい意味ありげに感じられる。
「昨日、どうした?」
背を向けたまま、少しだけ、間をおく。
「…ずっと、うちでギターひいとった。」
徹平は、嘘をつくのが下手だなと思った。
「映画行かなかったの?」
「寒かったし。」
「天気よかったじゃん、昨日。」
そこで初めて、徹平は振り返った。
思わず、ドキリとした。また体が少し強ばる。
力なく自分を見るその目は、やっぱり少し腫れぼったかった。
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