∽NOVELS∽

□早く起きた朝は
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「着替えは?昨日着てたやつでいいの?」
「ん。」
瑛士の目は、いまだ開かぬままだ。
「自分で着替えれる?」
ふるふると、瑛士は横に首をふった。
「着替えれないの?」
今度は、小さくうなずいた。
「…しゃあないなあ。」
徹平は瑛士のTシャツの裾を掴むと、ぐっとたくし上げた。
「はい、ウエンチュくん、おてて上げましょうねえ。」
「う。」
瑛士はそれでもまだ目を閉じたまま、重たそうに両手を上へと伸ばした。
スルスルと、ところどころ引っかかりながら、徹平は瑛士のシャツを脱がせた。
白い肌が、あらわになる。
「寒い。」
「寒くない!」
「うう。」
徹平は瑛士の上から、そしてベッドから降りると、脇にたたんで置いてあった彼のTシャツとトレーナーを広げた。
「これだけでええんやったっけ?」
振り返ってベッドを見る。
その一瞬の隙に、瑛士は再び布団にもぐりこんでいた。
「こらこらこら!」
徹平は再び布団を剥ぎ取ると、今度は無理やり瑛士のはいていたハーフパンツを脱がせた。
「いやあー!」
「おとなしくしろ!」
「徹平のえっちー!」
瑛士は股間を抑えてさらに身をかがめた。
そのしぐさに、徹平は思わず顔を赤らめた。
「アホ!」
つい目を逸らしてしまったが、ふと視界にはいった青と黒のボーダーの下着が自分のあげたものであったことで、徹平の頬が緩んだ。
「はい、服着るよ。」
背を向けたまま横になる瑛士を後ろから羽交い絞めにして引きずり起こす。
覚悟を決めたのか、もはや瑛士は声を発さない。
徹平は広げたTシャツとトレーナーを、同時に瑛士の頭にかぶせた。
「腕通して。」
一向に動きのキレが戻らぬまま、瑛士はTシャツに、トレーナーにとゆっくり腕を通す。
「次、Gパン履くよ。」
すると瑛士はまた体を倒し、無言で足を上げた。
「…もう。」
幼稚園児か、などと小言を漏らしつつ、それでも徹平はジーンズを足に通してやった。
「腰上げて。」
ゆるいブリッジのような体勢になった瑛士の股間に膝立ちで挟まり、徹平は腰まで上げたジーンズのファスナーを締める。
また少し、恥ずかしい。
すると、目がいまだ覚めぬはずの瑛士がポツリとつぶやいた。
「なんか、エロ。」
「え?」
目をやると、そこにはパッチリと目を見開いてにやける瑛士の顔があった。
「…覚めてんじゃん。」
あっけにとられる徹平を、瑛士はすばやく抱き寄せた。徹平が瑛士に覆いかぶさる。
「やべえ、朝から発情。」
「目え覚めてんじゃん!」
抱きとめられ、徹平は体を起こせぬまま瑛士の耳元でもう一度叫んだ。
「ほんとに着替えさせてくれるとは思わなかったけどね。」
「…!」
してやられた。
「いつから起きてたの。」
「鼻つままれた時?」
「…まじで。」
「まじで。」
「くそお。」
悔しがる徹平を抱きしめる腕の力が、すこし強まる。
瑛士の足が、徹平の足に絡まった。
徹平は慌てて顔を上げ、瑛士と見合った。
「だめ!もう準備しないと、遅刻する!」
「いいじゃん、全然大丈夫だって。今日は早起きなんだし。」
「でも。」
「エロい着替えさせ方するお前が悪い。」
「なんでや…」
言いかけた言葉は、瑛士の唇に遮られた。
朝っぱらから、濃厚なキス。
舌で徹平の口内をさぐり、瑛士は言った。
「歯磨き粉の味する。」
「そりゃ歯磨いたからね。」
抵抗しつつも、徹平は甘いキスのせいでトロンとした顔をしている。
たまらず、瑛士は徹平のシャツの裾から手を忍ばせた。
「瑛ちゃん、」
「無理。我慢できない。」
「…せっかく服着せたげたのに。」
「後でまた着せてよ。」
「…次は、自分で着る。」
「はい。」
そうして、今度はどちらからともなくキスをした。



その日、仕事には何とか間に合ったけれど。
取材中、腰が痛くて何度も椅子に座りなおす、落ち着きのない2人でありました。



【おしまい】
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