ヘタレな狼と強気な兎

□2.昔の話
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初めて君と会ったのは、ホグワーツに入学する前


父に連れられて入った小さな薬屋だった




買い置きが少なくなった包帯を買いに行ったのだ








満月後でズキズキと痛む身体の傷を服で隠し、他人と目が合わないようにフードを好んだ僕を
父が気分転換にと連れ出した時だ


普段包帯を買いに行くのは父一人でだった






そして君がいた




















ヘタレな狼と強気な兎























「あつくないの?」







父が包帯を選んでいる間、僕は店の隅にあった椅子に小さく腰かけ待っていた。
膝の上で小さな拳を握りしめて深く俯き、腕の痛みと薬品の匂いに必至に耐えていた。
早くここを出たくて父に視線を送ろうと顔を上げた時、目の前には自分と同じくらいの女の子がちょこんとしゃがんで僕の顔を覗きこんでいた。


それが君だった。



「ねぇねぇ、あつくない?」



くりくりとした瞳が僕には水晶玉のように透き通って見えて、吸い込まれてしまいそうで怖かった。
小さく身体が震えて、君の瞳から目をそらす。君はそんな僕の手を見て、首を傾げた。



「おねつあるの?」




そっと僕の手を自分の手で包み込み、僕の額に自分のそれを突き合わせる。
振り払いたくて仕方ないのに、僕にはそれができなかった。

カタカタと震える僕をじっと見つめると、急に身体を離して店の奥に呼びかける。



「ままぁ!ままぁー!おねつのくすりー!」



彼女の胸元に光る手作りの「おくすりやさん」と書かれた名札に、僕はその時気がついた。
店の奥に走っていく女の子を茫然と見送ったあと慌てて椅子から飛び降りると、彼女の声が気になったのか、ちょうどこちらを見ようと棚の間から顔を出した父のローブに飛び込んだ。
大きな父のローブの中にすっぽりと収まった僕の頭を、大きな手が優しく撫でてくれたのを覚えている。
店に戻ってきた彼女の声が自分を探しているのが聞こえても、僕は父のローブから出ようとはしなかった。
そんな僕がついてこれるように父はゆっくりと歩いてくれて、包帯を買うとすぐに店を出た。


家に着くまでの間、君の声が耳をついて離れなくて、
何年経ってもあの瞳を忘れることができなかった。
















それから四年。

再び君と会ったのは、ホグワーツの入学式だ。
組み分けの儀式、壇上に上がった僕が広間を見つめて一番に見つけたのは君の瞳だった。













( あぁ 、 その透き通る瞳は喋る帽子さえも敵わないのか )










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