N短編
□incubo(悪夢)
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背中が見えたんだ
大きくて自信に満ち溢れた背中が
暗闇の中で 僕とその背中だけがはっきりと形を持っていて
近づこうとしても 一向に距離は縮まらなくて
それどころか どんどん離れて小さくなっていく
とうとう 彼は
僕を残して いなくなってしまった
.
「―――おい!リーマス!」
「―!!!」
少し焦りを含んだ声に意識を呼び戻され、急激に飛び跳ねた心臓と共に飛び起きた。
「…シ、シリウス…!」
焦点の合わないままに彼を見つけると、彼は不安げに眉を寄せて僕の顔を覗きこんだ。
「…?」
「大丈夫か?」
そう聞きながら僕の額に手を当てる。
僕はそんな彼を不思議に思いつつも、彼の手の暖かさを感じて何故だかほっとした。
「大丈夫だけど…。どうしたの?」
「『どうしたの?』はコッチだって。お前うなされてたんだぞ?」
「汗びっしょりじゃねーか」と僕の顎に垂れる雫をタオルで拭ってくれる。
確かに、全身に嫌な汗が滲んでいた。
それに気づいた一瞬、闇に消えていく背中が脳裏によぎった。
.
「リーマス…?」
「え…?」
シリウスの手が僕の手を握り、顔を上げると彼は目を見開いて心配そうにこちらを見つめていた。
どうしたのかと見つめ返すと、握っていない方の手で僕の頬を拭う。
濡れた感触に、僕が驚いた。 僕は泣いていた。
「怖い夢でも見たのか?」
まっすぐに見つめてくる瞳。その光がとても眩しかった。
「…うん。でももう大丈夫」
彼の手を両手で握り返して、微笑んだ。
そのまま彼の胸に身体を預けると、まだ心配そうな様子だが優しく包みこんでくれた。
「本当か?」
「うん」
(夢の嘘つき)
だって君はここにいるのだから
.