04*09

□愛の逃避行
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『会いたい・・・。』




ねぇ、なんでいつも会いに来てくれないんです?

僕が嫌いなんですか?ねぇ、ねぇ、一樹さん。

 「会いたい…。」

ぽつりと庭のベランダでつぶやく。誰もいないだけにムナシクその言葉は春の風の散となった。
今、僕がいるのは実家である。
少々、母親の体調が優れなくて呼ばれてしまったわけである。
と、言うのが僕をここに呼ぶための口実で、本当は全然違ったと言うのが事実として僕の能の理解のスピードにあわせるにはかなりの時間を要した。
 数日前のことである。
僕に、あの家から電話があり、「母の体調が優れないから、一旦戻って来い」と言われ、本当にそれだけだったから、僕の愛してやまない人には、「少々、面倒な理由で家へ戻ります。一週間ほどで帰ってこれると思います。」としか言っていなかった。
流石にあの時に、何かの力でも僕に備わっていたのならば。あんな風に言わなかったし、まず電話自体を切っていただろう。
 僕が家に戻り、まず始に見たのは、特に不自由していなさそうな、それこそ言われなければ病気と分からないような、元気そうな母親の姿である。
「え…、お母様、あの…体調…は?」
「ああ、颯斗さん。全然平気なんです。というより何もないのですから別に平気なんですけれど。」
「は?、え?だって、貴方は体調が優れてないのでしょう?何もないって…」
「ごめんなさいね。颯斗さん。だけど、あなたは、こう言わないと、こちらに来てくださらないでしょう?だから嘘を付かせていただきました。…さて、あなたをよんだ理由を話しますね。」
何を言っているのかわからなかった。
否、
分かりたくなかったのだ。

「あなたに嫁入りしていただきます。」

一瞬、永遠ほどの時間が一気に過ぎた気がして気分が悪くなる。そのまま吐き出したい衝動に駆られたが、取り合えず今は、状況把握のほうが先であると思った。だから僕はあの人に向かって震えた声で尋ねる。
「あの…、何を仰ったのか…あの、僕はまだ17ですよ?お兄様とお姉さまは、」
「いいえ。颯斗さん。彼らは結婚しません。まあ、いずれするのかもしれませんが。どちらにせよ、あの人たちは駄目です。」
「あ、あの、それは僕も例外ではないのでは?どちらかと言えば、お姉さま以外可能ではないのでは?【嫁】ですよ?【婿】でなくて」
「ええ。三笠様のご子息はそういう趣味らしいので。そして飛び切り並外れた美貌の持ち主でないといけないので。彼らには向かないのです。」
「…三笠様というのは…」
どこかで聞いた事の在る名であった。
「ああ。コンサート等をいつも裏で手続きしてらっしゃる方です。あなたも、別にいいでしょう?」
そんなの困る。
僕には一樹さんがいるというのに。
嫌な汗が頬を伝う。頭の内側を誰かが金槌で叩かれてるかのような錯覚を味わう。
気分が悪くなったためか、僕の思い人がよぎったためか僕は叫んでいた。
「嫌です!!そんなの!!!相手は男性でしょう?!僕は男なんですよ!!同性婚なんて…」
「以外に無理でもないので、いいですね。颯斗さん。」
「よくないです!!僕はそんなの…嫌です」
「はあ…。とりあえずお見合いの方は、明日なんで。」
「おっ、お見合い!!!?なっなにを勝手に…」
「いいですね?」
「っ」
すごまれるとやはり何もいえない。
言い返せない。
一樹さんに会って、他の人にも僕は支えられてるっていうのが分かって、僕は変われたのかもしれないと思ったのに。
結局何も変わっていないじゃないか。
畜生。



「一樹さん…会いたい…」


目眩がするほどに青々とした空が僕の心の内に秘めた思いを見透かした。
「会わせてください。僕は…他の…一樹さん以外の人のものになんかなりたくない。」
(どうにかして抜け出せる理由を作って…)
心の内の内に秘めている思いが言葉となって喉から出てきそうになった。




結局誰にも相談することなく、僕はお見合いに行く事になってしまった。
思ったより三笠という人物が若かった事に驚く。
「君が颯斗君かい?」
呼びかける声は優しそうだけど、僕のどこかを抉った感じがした。
「あ…はい。」
「想像するより全然可愛い顔をしているね。可愛い。とても。美しい。」
一樹さんに言ってもらえるほうが全然嬉しいが今は一応そういう風には言わないでおく。
【いいですね?颯斗さん。巧くやってくださらないと、青空家も、コンサートを開くのは三笠様がいないと難しいのですから。くれぐれも失礼な態度をおとりしないよう注意してくださいね】
そう別れ際の母親の言葉が頭に浮かぶ。
自分の息子より、そちらを取った母親は僕にそう釘を刺し、お姉さまのコンサートに行ってしまった。
「ねえ?颯斗君。」
現実逃避を試みたわけでもないのに意識がどこかへいってしまっていた僕を三笠が連れ戻す。
「あ、はい。なんでしょ…う…か?」
なんか、知らない間に僕にかなり接近していたらしい三笠は僕の身体を手で触ろうとしていた。その手から逃れるように僕は少し後ろへ後退する。
「僕の嫁入りする決心はついたのかい?」
いえ。全く。
言いそうになってしまう口をふさぐ。
「照れてるのかい?可愛いねぇ。大丈夫。」
何が大丈夫なのかよく分からないが、とりあえず適当にはあ。とあしらう。
「僕はね。君に惚れたんだ。」
「え、あ、はあ。」
「だからね。」
そう言ってスススとまた近づいてくる。
こちらもスススと後退するが。
「トン」
「っ」
壁に当たってしまった。
まずい。
手がー…
「僕とキスしよう」
手が口元に移動して貴意やらしいてつきで僕の唇をなぞる。
「い、」
三笠の顔が段々近づいてくる。
(嫌、嫌、嫌ーーーー!!!!)
「颯斗…」
口と口が当たりそうになるのを必死に防ごうと顎を引くが、指で上げられ、もう距離が1cm
もないーーー
「いや…」
「ガッシャアアアン!!!!」
「なっなんだ!!?」
「ちょっと失礼。」
ふわっと広がる僕の大好きな香り…。
目の前にいるのはー…
「かっ一樹さん!!!!??」
「よぉ!!颯斗。」
「なっなんなんだ、お前!!」
「あ?何って…颯斗の旦那だ、ボケ。」
「だっ旦那ーーー!!!」
そう言うとイキナリ一樹さんは僕の身体をひょいと持ち上げー…
「かっ一樹さん!?」
なんとまあ。これはなんですか?お姫様抱っことやらでしょうか?
「捕まっとけよ。颯斗。」
「はい!」
「ちょっ!!待てよ!!お前!!それは誘拐だぞ!!」
「あん?誘拐?ああ、そうかもな。ま。誘拐される側の颯斗の同意の上での、だけどな」

「じゃ。あばよ。」

そう言うと一樹さんは僕を抱えたまま孤高のヒーローよろしく、そして、威厳在る誘拐犯よろしく僕という名の宝を奪っていく。

「一樹さんとならどこへでも行けます。」
「俺もだ。」
「一樹さん…好きです。」
「俺もだよ。」
そう優しく呼びかけてくれる一樹さんを本当に僕は愛していて。
僕は大好きだ。
そう言うと一樹さんは僕の唇にキスをして。
「このまま二人で行くか。」
と言った。
「え?どこへ?」
「俺となら。どこへでもいけんだろ?」
「!はい。」


































「愛の逃避行って格好いいじゃん。」







閂様フリリク。
愛の逃避行を。
とのことだったので。

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