starry☆sky自作小説

□虹色奏音
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「ラ、ララ、ラ、ララ」

空気を振動させ音として伝わり青い空に吸い込まれていくメロディに、まだ幼かった僕は、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。
(こんな音を僕も…)
強く願うことを子供の頃からしたことがなかった僕にとってこれは初めての【願望】だった。
この音を奏でている人物は僕にこう言った。
「お前は、何色の音を奏でたい?」
音に色があるわけないじゃないかと思いながらも僕はあの時こう答えた。
「えっと…虹…そう、虹色がいいです」
そんな風に言った僕にその人は僕の頭をなでながら微笑んだ。
「虹色かあ…。それは綺麗だ。」
あの時のその人の顔は今は覚えていない。
思い出そうと思っても思い出せない。
綺麗な笑顔だった。とだけしか記憶されていない。今の僕のような愛想笑いじゃなくて純粋な、純粋すぎる笑顔だった。
 
 「青空ー!!大丈夫かー!!??」
「うわあっ」
突然、声をかけられて過去の思考が中断される。思い出せない理由はきっと他人に邪魔され中断を余儀なくされるというのも含まれるのだろう。今回その立場の人間は同じ学科の犬飼だった。
「どっどうしたんです?犬養君。いきなり声をかけたりして…?」
「いや…どうしたというか…それはお前なんだけど…ああ、いや、もうすぐ先生来るから…」
僕の質問に答える彼は挙動不審という言葉をそのまま映し出したようだった。
「あ、それで声をかけてくださったんですか。ありがとうございます。」
「あ、いっいやいやいやいや!!!大丈夫!!!」
本当ですか?と真偽を問いただしたくなるようなおどおどした様子で彼は席に着く。
それとほぼ同時に先生が教室に入ってくる。
「おーい!!みんな、席に着けー!!!今日は転入生を紹介するぞー!!」
その一言でクラス内が騒がしくなる。
そのノイズの大半を占めているのが先程までおどおどしていた犬養だった。
「だけど男子だー!!!」
その一言により先程までのノイズが溜息へと姿を変える。その溜息の大半を占めているのも勿論犬養だった。
「入っていいぞー」
そんな先生の言葉でクラス内に緊迫した空気が漂う。
ガラッという音を立て扉を開き先生の隣に立った彼の姿を見た瞬間クラス全員が僕を見る。なぜだろう。
「早空青人(Hayasora Aoto)。よろしく。」
たまたま僕が顔を上げた瞬間、無愛想に簡易自己紹介を済ませた彼、早空青人と目が合った。その瞬間、彼はその無愛想さをなくしていきなり微笑んだ。それと同じように僕も微笑む。だけど、それは愛想笑いだ。
「じゃあ、早空の席はぁーあの美人の隣な」
今、不思議な言葉が聞こえた気がする。
それでも早空君はカツカツ靴を鳴らしながらこちらに向かってくる。
「よろしくお願いしますね。早空君。」
「よろしく。えっと…失礼だけど…」
どちら様ならまだわかる。わかるけれども。
「なぜに男装中なの?君、女の子でしょ?」
その言葉を聞かれた瞬間クラスメイトが笑い出す。それに思わず顔が赤くなる。
「僕は…僕はッ男子です!!!!」
「え!!うそ!!ごめっ…」

これが僕と早空青斗との最悪な出会いだったと記憶に刻み込まれることになる。

 −虹色騒音ー
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