10*09

□眠り姫の御所望
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今日は運がいいみたいだった。

別に職員会議に出なくても怒られなかったし、職務中に寝ていても怒られなかった。
そして何よりー…
「あの…先生…」
と控えめながらも美しく入ってきたピンクな生徒会副会長の颯斗が俺の目の前に座っていることが何よりの幸福であった。
「あ、ああ。悪い。で、何の用だ?まさか体調不良ってわけじゃ…」
そんなことだったら今すぐベッドに寝かせなくては…と思った俺に対し、颯斗は「いえ、そうではないのでご心配は無用です。先生。」と言ってくる。だがそんな様子にさえ本当かと疑う俺は正常な判断をしていると思う。大体、颯斗は体調不良だと言って自分の力でここまでたどり着いたことは一回もない。毎回毎回運ばれてくる。その日によって郁になったり直獅になったり犬養になったり不知火になったり宮地になったり白銀になったり、はたまた、この学園のマドンナの夜久になったり…だ。あの時は本当に大変だったと思う。「どうしよう!先生!!颯斗君倒れちゃった!!だけど!!軽いの!!軽すぎるの!!人間じゃにゃいみた!!!い!!」とか声にならない声をあげた夜久は倒れた病人をブンブン揺すっていた。アレを落ち着けるのにどれだけ体力をなくしたことか。郁が途中できてくれてよかったと今更ながら思った。
 「先生こそ大丈夫ですか?何か…」 
そんな風に沈思黙考をしていたが故に逆に俺が颯斗に心配されてしまった。慌てて俺は訂正する。
「あ、いや。何もない。そんなことよりお前はどうしたんだ?」
「その…眠気覚ましって…ありますか?」
少し俺も能の整理をしよう。なんだ?今なんていった?
「颯斗?お前…睡眠薬の間違いじゃなくてか?」
「いえ、そんな睡眠なんて。出来るわけないですよ。何せ大量に仕事が…フフ」
ああ。颯斗が黒い。黒すぎる。でもまあ、そんな姿も妖艶でいいのだが。
「仕事…生徒会か…そんな急がなくても…」
「いえ。先週の分までたまっているのでそういう訳にはいきません。それに…そうでなくても、僕がやらなきゃ会長も翼君もやってくれない…ふわあ…」
そんな仕事やら色んな存在にかなりの圧迫感があったのだろうが、それ故に今は気が抜けたのか颯斗は小さく欠伸をする。本当に眠いんだろうなと思ったが俺がどうしたところでコイツは強情だ。絶対「だったらコーヒー飲みますので。ありがとうございました。」って言って逆効果なので「わかった。ちょっと待ってろ。」と言って立ち上がった。たしかそこらに直獅が「琥太郎先生はこれでも飲めばいいんだよ!」とか言って置いといたはず…と思い起こしながら薬品をあさる。「あった。あった。」そして俺は颯斗に近寄りこれだ。と渡す。すると颯斗はよほど疲れてたのか、すうすうと少し首を揺すらせながら眠っていた。(疲れたなら休ませないと…また他の奴らに運ばれるのは嫉妬が…あ。いや。
「サラ…」
そんな風に思ってると耳にかけていた桃色の髪が颯斗のうなじを滑るようにはらりと落ちた。なんとも妖艶だ。だがそう思ってる間にその髪は颯斗の口に入りそうだった。
「あ。」
気がつけば俺はそっと颯斗の髪に触れ、耳にかけ直そうと少しだけ耳に触れた。
「フニッ」
少し握ってしまった。まあ。まさかこんなんで起きるわけない。と思った俺はいくらか甘かったようで。
「ひや…ん!」
一瞬誰の声か分からなくて俺は周りを見渡す。どう考えても俺と目の前で先ほどまで眠っていた颯斗しかいなくて。じゃあ、さっきの声は?と俺が思っているとまた軽く、まだ握っていた颯斗の耳をフニと握ってしまった。
「や…ぁ…やん!」
「…。」
仮にも生徒会鬼の副会長として名を馳せていた男とは思えないほどの甲高い声。
(…面白い…)
調子に乗って俺はもっと颯斗の耳を握った。
「や!!いや…あん!!やあん!」
クニクニ回してやるとフルフル震えながら身をよじる。
「ぽた…」
「?」
(!)
少し苛めすぎてたようで鬼の副会長は純情な乙女よろしく啼いていた。
「…っく…ヒック…」
俺は慌てて耳を離してすぐに颯斗に謝る。
「わっ悪かった!!大丈夫か?颯斗!いや…そんな耳を障られるのが嫌いだとは…」
「う…ぇぇ…ん…うぅ…」
まずいまずいまずい!!!もっと啼いている!!
どうする!?
オロオロしながら俺はとりあえず颯斗の涙を白衣でふき取りー…
「ふわっ…」
お姫様だこの形を取った。
「よしよし…もう大丈夫だ…颯斗…悪かった。」
「うっ…くすん…っく…すっすぅ…すう…」
最後は寝息となったが一応泣き止んではくれたらしい。(よかった)
しばらく俺はこの抱っこの状態を保っていた。
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