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□那由他の回答
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声を聞かせて。
俺に、お前の、声を。
お願いだから。



那由他の回答を今ここに。




俺がお前を思う理由なんて必要なのか?
と俺が聞くのにお前は何て言ったっけ?
たしか回答はこうだったな。
いいえ。いりません。
俺はその答えが嬉しかった。
だから、その愛らしい唇にいつもより長く、
だけど普通と比べると短く、
キスをして。
そのままベッドに押し倒してずっと、
それこそ永遠なんてものいいように。
ずっとずっとずっと抱きしめていた。
そんな様子に驚いたのか、お前は
「先生?」
とか聞いて、首をかしげたな。
俺はお前のしぐさが全て好きだった。
愛していたんだ。
その髪も、顔も、目も、鼻も、口も。声も。
何もかも。
だから。
俺は、誓ったよな。お前に。
俺はお前を守るから。
絶対何があっても一緒にいるから。
って。
そしたらお前はなんて言ったっけ?
「わかりました。」
でもよかったし、
「嫌です。」
でもよかったし、
「ありがとうございます。」
でもよかったのに。
そんな風に言わずに、お前はただ一言。
「僕は先生が生きてるまで生きれるでしょうか?」
って、言ったな。
それに俺は、
「そんなの当たり前だろう。」
と言ったな。
なんの根拠もなかったよ。
まったくなかった。でも。
生きていてくれって願いで言ったんだ。
「僕は…生きたい…。」
ほらな。誰もが思うんだ。そうやって。
「だけど…僕の前から先生が消えてしまうなら…生きたくない…」
だけど、続く言葉はそういった願望で。
一種のスーサイドだ。それは。
って俺が言った。
お前は笑ってくれると思ってた。
だけど。
振り向いていたのは
俺の好きじゃない泣き顔で。
「僕は…先生がいないなら…」
やめろ。その次を言うな。俺をー…
「僕の記憶から…何もかもを差し引きたい」
それこそ…スーサイドじゃないか…。
記憶から全てを抹消することは死ぬことと同意だ。
自殺願望ーつまりはスーサイドと一緒だ。
俺の耳は一瞬停止して。
その言葉を聞きたくなくて。
耳をふさいで。
俺はお前にキスをした。
「先生の…回答とは、違ったんですね。」
「模範解答を望んだか?」
「回答は…そうですね。近いものでありたかった。」
「だけど。」
「ええ。だけど。回答は那由他程あります」

そうやってお前は濡れた頬を緩ませて。
俺の一番好きな顔で。
笑ってくれたな。

なあ。
回答は、那由他程あるんだろ?
だったら。
なんでお前はこれを選んだんだ?
那由他あるなら、もう少しくらいマシなのを。
選べただろうに。

「なんで…俺に言わずに…死ぬ決断してんだよ。」

模範解答とは桁違いに外れてる。
県外なんてものじゃない。
死ぬなんて選択肢ないはずだったのに。

「この世界から…僕を助けて…」
これが最後の言葉なんて。
嫌だ。
聞きたくない。
ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。
俺は。
お前と一緒にいれればよかったんだ。
【死】なんて選択肢を望んだことはない。




「わかった。俺は。お前を助け出すよ。」



そう言えばお前は死ななかったか?
生きていてくれたか?
今の今までと同じように。
笑ってくれたか?


「颯斗…」


「颯斗」

「はい?」
「え…」
「ようやく起きましたか。よか…?」
夢だった。
颯斗は生きていた。
夢だったんだ。
よかった。
よかった。
よかった。

そんな様子の俺に驚いたような顔をする颯斗のその愛らしい唇にいつもより長く、
だけど普通と比べると短く、
キスをして。
そのままベッドに押し倒してずっと、
それこそ永遠なんてものいいように。
ずっとずっとずっと抱きしめていた。

それから俺が口を開いて、
「何も聞かないのか?」
って聞くと


「何があったかはあえて追求いたしません」


って言ってくれたな。














それはな。
那由他の回答のうちの。
星月琥太郎が考える
今の模範解答なんだよ。

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