NOVEL!

□リレントレスディペンダンス
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 意味を求めるなんて愚か。好き勝手に跋扈するのが妖怪の本分。そして存在意義なんじゃない?
 なんて、わざわざ言葉にして説明するのも馬鹿らしい。私は教科書じゃないから正確に詳細を語る義理がない。曖昧が総て。混沌は秩序よかマシね。
 だから、あなたが理不尽に捕まり、こんな風に縛られてるのも、私があなたを「縛りたい」と思っただけだから。他に理由はないわ。
 そう、あなたは何も悪くない。出会った相手が悪いだけ。だから私を憎んでくれて構わないわ。最も、あなたは憎悪とかの負の感情を誰よりも嫌いそうなタイプだけど。
 その凛とした眼差し、いつまで保つのかしらね? 屈しない? なかなか気丈ね。好きよ。
 でもね、私はそんなに優しくないし、積み上げてきた自信、或いは不動なる信念、揺らぎない心――要は絶対に崩壊しないような素敵なものを、バラバラにするのが大好きなのよ。その為には半殺しも生ぬるいわね。絶望した顔とか、堪らないわ。
 あら、以前より目力が弱まったわ。もしかしたら物騒な話は苦手? まあ好きだとしたら職業を疑うわね。秘密にしていた趣味なら話は別だけど。
 ねぇ……さっきからそんなにもじもじして、どうしたの? バレてないと思ってたの?
 ふふ、そうね。冷えたお茶をご馳走して貰い、それを飲んで数分後に突然昏倒し、気が付けば肌着だけの恰好で縛られ続けているんだから、無理もない。お手洗いはここを出て、左よ。
 ああ、ごめんなさい。動けないから行けないわよね。分かった上で教えたの。イジワルでしょ? これが妖怪の本性なのよ?
 そんな、泣いちゃダメよ。あなたは涙を見せちゃダメ。リーダーであろう者が情けないわ。いいの? こんな姿を部下に見られて。
 イヤよね。分かってる。分かった上でからかった。それが楽しくて、この上なくそそる。あなたのこと、大好きなの。
 安心して。失禁されたら私も困るわ。野外じゃないから……ね。ほら、縄をほどいてあげる。
 痛かった? ごめんなさい。あなたの泣き顔が素敵で……クス。可愛かったから、つい。キツく縛っちゃったの♪
 え? ほどくのは足だけよ? 腕までほどいたら逃げられちゃうから。
 うふふ、どうしたの? お手洗い、未だにひとりで行けないの? お子ちゃまね〜。親の顔が見たいわ。
 あっ、また泣いて、もう。本当は繊細なのね。硝子のようで……つい、砕きたくなるわ。
 行きましょう、一緒に。だっこしてあげるから、落ち着きなさい。


 Ω Ω Ω Ω Ω


 お待たせ。おやつのクッキー、持ってきたわ。
 あら、まだ泣いてるの? 酷い顔ね。可愛いわ。
 それはさておき、私達同性じゃない。裸になったのは下だけだし、男は平気で同性の排泄を覗き見するわよ?
 大丈夫、誰にも云ったりしないわ。私とあなただけの秘密。ふふ、なんだかロマンチックね。私も、やっぱり女だもの。
 さあ、クッキーよ。熱い紅茶と召し上がれ♪
 うふふ、そうよね。心配しないで。もう飲み物に薬はない。本当よ。
 ……ふふ。食べたい? 食べさせてあげましょうか? あーん、って。
 ああ、今の縋るような眼差し、とても素敵よ♪ ぞくぞくしちゃう♪
 本当に可愛いわね……壊したくなる、儚さがある。ねぇ、壊していい? あなたの純情(おとめ)、グチャグチャにしていい?
 コホン、ごめんなさい。ちょっと興奮し過ぎたわ。自重する。だからそんなに怯えないで。私も傷つくわ。
 焼き立てのクッキー、早く食べましょう? 二人きりで食べ合いっこ、きっとドキドキして、興奮しちゃうかもね。


 Ω Ω Ω Ω Ω


 お粗末様。全部食べてくれたのね、嬉しいわ♪
 美味しかった? あら、ありがとう。その媚びない答え方、好き。あなたは本当に善人ね。
 私は善人でもないし、さりとて自ら悪人を気取るようなキザでもない。私は私よ。誰も評価できない、評価できるほど私より私に詳しい者は居ない。
 あなたは私を評価できる? 羞恥を強いてきた悪女だと思ってる? 卑怯な手を打って束縛してきた最低な妖怪、下衆だと内心で唾を吐いているのかしら?
 まあ、興味なんてないわ。私が嫌いなら嫌えばいい。それでも私はあなたの、あの泣き顔と絶望感を露わにした震え方が愛おしくて、それを否定したくない。誰にも否定されたくない。
 ええ、要はエゴイズムなの。独善。それこそが自由。許されざる開放感。
 節制を重んじるあなたは許さないでしょうけど、これが私。自由の為なら面倒な阻みを粉砕し、それに責任という名の覚悟を背負う。それがポリシー……というより志、人間でいう信条ね。
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