花鳥風月

□イノウエくんとキサキさん
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 今年の夏は暑い。年々暑くなっていく気がする。

 もうすぐ秋になるというのに、日中の太陽は堂々と自分達を見下ろしていた。まだ、蝉が鳴いている。

「ちっくしょー…あちぃ。」

 教室の窓際、日陰になる一番後ろの席で団扇を扇ぐ男子生徒。半袖のYシャツの前を開き、下に着るタンクトップをひっぱりながら風を送っていた。

「イノウエうるさい。さっきからそればっかりじゃん。暑い暑い言わないでよ余計暑くなるっつの暑苦しい。」
「オメーのが言ってんじゃねぇかキサキィ。」

 隣にいた女子が眉間にシワを寄せて非難する。少々口が悪いが、いつものことだ。クラスの誰も気にしない。

「つーかマジ暑い。こんな時に限ってエアコンぶっ壊れてるとか有り得ねぇよ…。」

 うがぁ、と意味のわからない声を上げて机にうなだれる井上を一瞥して、城崎はため息をついた。

 黒板を見る。白いチョークで大きく、自習の文字。監督の教師はこの暑い中、パイプ椅子に座ってうたた寝している。お気に入りの、両親から誕生日に買って貰った腕時計は、正午を少し過ぎていた。

「イノウエ。」
「あ?」

 机にうなだれたまま首だけ上げた井上。

「あげる。」
「痛っ」

 ハンドタオルにくるまれた保冷剤が井上の額にクリーンヒットして、机に落ちる。

「ナニ、これ。」
「保冷剤。お弁当に入れてたんだよ、傷むから。ソレあげるから、あと10分そこで死んでて。」
「死んでろって酷い…。まあいっか、サンキュー。」

 首の後ろに保冷剤を乗せて、そのまま机に伏せる。そんな井上を見て、城崎はちょっと笑った。

 あと10分で、チャイムがなる。
 目の前の数学のプリントは、一問だけ空欄になっていた。

「証明とか、マジでムリ…。」


9月下旬の災難



 受験生の夏はまだまだ暑い。


 
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