花鳥風月
□イノウエくんとキサキさん
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「え、それってマジですか?」
「こんなタチの悪い冗談言うヤツいたら、それ多分教師じゃねぇよ。」
職員室に呼び出され、担任から告げられた一言は、井上を固まらせるには効果が大きかった。いや、むしろ大きすぎた。
「おーい、イノウエ、生きてっか?」
「死んでマス…。」
「よーし生きてるなー、邪魔だからどけ、踏むぞ。」
倒れるように腕をついて動かなくなった井上に生死の確認をした後、非情な言葉を吐き捨てる担任を睨む。
「助けて下さい!」
覚悟を決めた井上の目は必死。対して担任は、ニヤリと口端を上げる。
「そのまま土下座したら考えてやってもいい。」
「アンタそれでも教師かぁっ!!」
返答に、間髪入れずに突っ込む。
「イノウエ、ここ職員室。つまりここに堂々と座ってる俺は教師様。そしてお前の成績握ってるのは?」
「あなた様でございます。」
イイ笑顔を浮かべた担任に今度こそ土下座をする井上。担任は満足そうにそれを見た後、プリントの束で頭を軽く叩いた。
「これ、今週末までな。」
井上が頭を上げて受け取ると、明らかに教科書の倍はある厚み。
「なんすか、これ。」
「お前の救世主。丸付けして各教科担当の先生方に今週末までに提出してこい。」
わかったらさっさと行け、とばかりに手で追い払う仕草をする。別のことに取りかかってしまった。
井上は手元のプリントと担任を見比べ、背に腹はかえられないと立ち上がった。
「ありがとうございますっ!」
勢い良く頭を下げ、職員室を出る。
向かうは教室で勉強しているであろう城崎の元。全力で階段を上り、教室へ戻った。
そのままの勢いで教室のドアを開けると、音に驚いた城崎。
「お願いがあります、キサキさん!」
「ハイ、何でしょう。」
井上につられて敬語になった城崎の前まで来て、膝と手を床につく。先程やった、もう躊躇いはない。
「俺に勉強を教えて下さい!留年しそうなんです!」
「…は?」
井上の土下座と言われた事実に、見事に城崎は停止した。
良くも悪くも全力
「仕方ないなぁ…」
「やった!」