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□愚問
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付き合い始めた頃、俺にはイマイチわからなかった。
ホントに跡部さんは俺のことを好きなのだろうか…と。
だって跡部さんには許嫁もいてそれでいて尚数々の美女からの人気がある。
彼女には困らない人なのに何故俺なんかと付き合うなんて言い出したんだろうって。
この一件について聞いた時にはそれはそれは馬鹿にされた。
「跡部さんは俺のこと、好きですか?」
ただ普通に気になった。
何故俺なのか。
ホントに俺なんかで満足出来るのか。
わからなくて…不安で…。
しかし跡部さんの答えは意外とスッキリしていた。
「何今更、そんな愚問聞いてんだよ、アーン?いいか、俺は気に入らねぇ奴に付き合うのなんのって話はしねぇ。」
そりゃあ、まあその通りだ。
でも、何故この人は“付き合う”と言ったあの日以来『好き』と唱えようとはしないのだろう。
いつも頭を過る、もしかしたら…という考え。
跡部さんが言った答えに満足してない訳じゃない。
ただ今は確かな言葉がほしい。
俺の身体中に駆け巡る不安がうずくんだ。
何もないところに1つ、俺という存在が孤立しているように思えて。
跡部さんという世界に俺は入れているだろうか。

「じゃあ、どうして…言ってくれないんですか?」
それは奥底にしまい込んで蓋をしたはずの言葉。
聞いてはいけないと警報が鳴ったはずなのに、どうして聞いたのだろう。
嫌われた。
それはまるで真ん中に矢を射たれた的。
跡部さんは怪訝な顔をしてこちらを見る。
何故、アンタがそんな顔をするんだよ。
なんでアンタが巻き起こした不安を消せないんだよ。
俺の心の声は波のように押し寄せて、言ってはダメだとわかっていながらも声となって出ていった。
「最初からそうだった、アンタは俺に好きだって言わせて!!付き合ってやる、ってあたかも自分は仕方なく…みたいに。…俺に…好きだって一度も言わなかったじゃないか。俺の気持ちも考えてみろ!!不安で不安で押し潰されそうで…選択肢なんてたくさんあるアンタが俺を選んだ理由なんて考えれば考えた分だけあって。そんなので…軽々しく俺のこと好きか、なんて質問に答えるなっ!!」
いつの間にか流れた涙。
張り上げることのない自分の声。
それはまるで泣き叫ぶような…。
「アンタなんて大嫌いだ。いつだってそうだ。人のことなんか考えちゃいない。」
叫んだのが嘘のように静かに呟いて、俺はその場を離れた。
所詮始まりは一目惚れ。
叶わなくて当たり前なんだ。
そうだとわかっていても涙は止まらなかった。


そして俺はその日から5日間学校を休んだ。
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