オケアノスの都

□第九章 赤と黒
1ページ/20ページ


 ガロテに連れられてやって来たのは、見知らぬ邸であった。
邸にある双頭竜の紋章にその邸が、ダインスレフ家の邸だと気づく。

「 取り調べなら、海軍庁舎で行うのかと思ったけれど 」
「 主の意向よ。まぁ、その後にいっぱい可愛がってやるさ 」

 と、太股へ手を這わすから思わず、払い除けてガロテを睨む。
ムッとなったが、すぐにニヤリと笑う。

(気持ちの悪い!)

 同じ男なのに、クラウソラスやグンナーとは違って品がなく、教養も感じられない。
その様な男に、自分の肌に触れてほしくなかった。
そんな男の視線が嫌で逸らすと、ちょうどゴンドラが邸にある渡し場へ入る。
クラウソラスの邸、グンナーの邸とはまた違う趣向の造り。

(まるで、アロンダイト家へ帰ってきた気分だ)

 贅沢で何不自由のない生活の場であったが、牢獄の様な退屈な場所。
ダインスレフ家に抱いた印象が、そうだった。
ガロテが先頭に、部下の兵士がアンサラーの後ろにつく。
手など拘束はなかったが、下手なマネはできなさそうだ。

(一応、短剣を隠し持っているけど)

 懐にクラウソラスが造り直してくれた、あの短剣がある。
腰にあったのを、咄嗟に懐に隠したのは万が一を考えてだ。
だが、武芸がそれ程に得意ではないし、体格や膂力がガロテたちに比べて劣るので、抵抗らしい抵抗はせず機会を窺う。
その為、ガロテたちもろくに身体検査をせずに短剣の事がバレずに済む。

「 ここだ 」

 と、扉を開く。
それと共に、椅子に座っていた男が立ち上がった。

「 アンサラー……とは、そなたか? 」
「 貴方は 」
「 私はグラム=ダインスレフ。この邸の主にして元首補佐官を務めている 」

 そう言って、グラムはガロテに下がれと手で示す。
ガロテはお辞儀をし、ニヤリとアンサラーへ笑った後、部屋を出て行く。

「 取り調べだと、伺いましたが 」
「 そうだ 」
「 私が何を…… 」

 決まりきっている様に感じていたが、あえて問う。
グラムはふっと笑む。
その笑みは、アンサラーに向けて嘲りが含んでいたのだ。

「 そなたは、グンナーとは愛人関係にあると 」
「 ……さぁ 」
「 奴がクラウソラスを殺した可能性があるのに、よく許したな 」

 それを聞いて、アンサラーは腹立だしくなる。

(ぬけぬけと!)

 エアの姉に残っていた痕跡。
グンナーの推論。更に、グラムのこの態度で確信を抱く。

(この男が、ティソーン氏とクラウソラスを!)

 このままでは、みすみすといい様にされると思い考え抜くのだ。
そこで、一か八かの賭けに出る事にした。

「 そう言えば、私もちゃんと名乗ってませんね 」

 そう言うと、訝しげにグラムが見つめる。

「 私は……アンサラー=アロンダイト 」

 アロンダイトの姓を聞いたグラムは、驚きを隠せない。


次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ