オケアノスの都

□第二章 獅子が守護せし海都
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 アンサラーはクルタナと共に、無人島から少し離れた沖合いで停泊していたグリフォン部隊の軍船へと、やって来る訳だが。
軍船にはためくヴァニス共和国の国旗、聖ミケーレを表す翼の生えた獅子を見るなり、否応にも緊張を浮かべてしまう。

「大丈夫ですよ。海賊とか相手だと、容赦はしませんが、海賊以外の方でしたら危害とかを加えるというのはないですから」

 クルタナは柔和な表情でにこりと微笑む。
絹糸の様な柔らかい、銀色の長い髪に穏やかで柔らかい物腰が、周りを和やかなものにする。
が、アンサラーの緊張を和らげる程には、ならないかった。

(普通ならそうかもしれないけど……)

 クラウソラスが討伐に向かう際に、またしても忠告を受けている。
それは、アンサラーの身分であるジェノヴェアの貴族だという事を、バレない様にしろと。
簡潔であったが、ヴァニス共和国とジェノヴェア公国との経緯を、聞いてアンサラーは身震いをするのだ。
斜陽気味であるピケス共和国もだが、イーンスラ半島にある国々たちは主に、海上や陸地を問わず交易により発展した都市国家であり、好敵手だった。
それぞれの近海を征しているものの、より大きな権益と覇権を求めて争っている。
特にユステニア帝国やムサラムと繋ぐ為、このネウス海は交易の利益が大きいので、いっそうの複雑さを見せていた。
そんな状況で追放身分とはいえアンサラーは、ジェノヴェア公国で第一級の貴族の者だけに、政治的な働きに利用されかねないと、クラウソラスが危惧を抱き忠告したのだ。

(……そんな事とは、私自身はちっとも、思ってはいなかった)

 アロンダイト家での自分への扱いは、実に冷たくて自身もあまり関わる気もなかったからあえて、無視をしていたが。
何も知らないからこそ身を守れたが今では、仇となっている様に思えた。

(私はもっと、知るべきだろうなぁ)

 クルタナにはわからない様、ため息を吐き出す。
軍船に乗り込み、大きく目を見張ったのはグリフォン部隊の軍船が、最新式のガレー船だったからで。

「すごい……」
「外海では帆船が、主流でしょうが、ネウス海……特に、遠浅が広がるヴァニス共和国近海では、ガレー船のがいいかと」

 クルタナの話ではヴァニス共和国の首都、リベルト島や周辺の島々は潟が存在していて、重く重量のある大型帆船では座礁する恐れがあると話す。
アンサラーとて噂程度であるも、ヴァニス共和国の街について耳にしていた。
潟に守られた天然の要塞で海に浮かぶ街だと。興味を抱かない方がおかしい。
ふと、周りを見やりガレー船の櫂を漕ぐ者たちが、普通に兵士たちと談笑をしていた。

「漕ぎ手って、奴隷とかじゃないのか」
「えぇ。船の根幹的なものですからね。戦の時は特に、ヴァニスの人たちが役目を担います」

 その言葉は驚きを隠せない。
ジェノヴェア公国も似た様なものだが、まさか漕ぎ手が自国の市民とかは予想すらなかった。


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