オケアノスの都

□第三章 華やかさと影に
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 アンサラーはここ数日に渡って、知識を得る事に忙殺される。
船の知識や海上での生活、商業や交易の事からヴァニスの歴史まで、様々であった。
大変だと思っても、それが嫌だとか苦痛だとかは思わなくて、遣り甲斐であり面白く興味が尽きないくワクワクする。
言語も、普段から使っているラステ語だけでなく、公用の方やユステニア帝国の公用言語である、エスト語にムサラムの言葉まで多岐に渡る。
 商売上、必要なものであるし教養としても、付属できるのも大きい。

(ジェノヴェアで一通りは修めたつもりだけど、まだまだ、足りない)

 それにクラウソラスが持っている蔵書も、量が多くて最初は目を丸くし驚いたものである。
今、読んでいるものは聖書にある地獄を題材にした詩編で、今までの単に神を賛美するだけの教会主導ではない、実に読み応えがあった。
他にもノーグマ帝国時代の古典文化への研究解釈を読んだり、知らない事を知ると楽しさと面白さを感じるのだ。

「はかどっているか」

 商談など忙しく動いていたクラウソラスが、部屋へと顔をだす。
本から顔を上げると、クラウソラスの笑みが目に入った。

「これって、クラウソラスが集めたの?」

 本と言えば装丁されたもので、費用もかかるものだから集めるには相応に費用がかさむ。

「残念ながら、その本類は俺が集めた訳じゃないのだが」
「そう言えば、今だって商談なりをしているのに何で、借りているってあの時は言ったのか?」

 あの時の疑問を聞いた。
本の事にしろこの質問にしろ、アンサラーは機転が利き、鋭いものを持っているとクラウソラスは思う。
クラウソラスが、苦く笑みを浮かべながら。

(こうして見ると、単に世間へ疎かっただけで)

 アンサラーは決して、頭が悪いのではないとクラウソラスは感じている。
しかし、馬鹿正直にこの質問を答える事は、クラウソラスでも躊躇いを覚えた。
だからと、今まで通りにはぐらかすのもアンサラーを騙している気分となり嫌なもので、クラウソラスは慎重に答えてゆく。

「まず、ディミオス家は貴族だが議会へはそれ程に、強い家柄じゃない」
「下流なの?」

 ヴァニスの貴族階級は他の国に比べて、厳密に分けられてもいないが上流と下流には一応、分類され区別される。

「下流とも言えない。上流とも言えないし。こういう中間的な貴族が、結構多いのがヴァニスの特徴と言える」

 貴族の特典と言えるのは誇りと自由だけで、暮らしは庶民よりかは上というだけ。
貴族だろうと庶民だろうとまず、国を出て商売をする事を奨励されている。
商売だけでなくヴァニス市民は、植民地の運営や管理、領事館での雑務など多岐に渡っているし。
人材は確保をしたいのが国の方針であり、資源や土地が少ない分、国自身で交易を後援してゆくのは、優秀な商人は優秀な人材にもなるからだ。


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