オケアノスの都

□第四章 蠢く野望
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いつもの様に、定例議会が議事堂に集まり、話し合われた。

「それでは、今日の議会を終了します」

 議長を務める初老の男性が、そう閉会宣言した時だ。

「お待ちください」

 そう高らかに声を上げて立ち上がったのは、ダインスレフ家当主、グラムである。
議場はざわりとなり、揺れた。

「何ですかな。グラム殿……?」

 訝しげに議長は目をやり議員たちも、注視をする。
普通ならいきなりの発言はあまり、いい顔をされないものだが彼は特別に許されていた。
元首の補佐官だからであり、彼は元首の目であり耳である為である。

「突然の発言をお許しください。今、元首の従者が緊急を要する報告を持ってきましたので」

 確かに終了近い時、グラムがその者と語り合ったのをブリュナクだけでなく、他の者たちも目撃している。

「実は、フランキスカ王国から元首宛てへの書状が参りました 」
「書状?」
「ハルンベルグ王からの書状です」

 再び、ざわりと議場が揺れて騒然としてゆく。
ブリュナクは嫌な予感を感じて、表情が険しくなる。
フランキスカ王国は北エオロパにあるゲルン民族のフランキスカ族が建国し、北エオロパ最大の領土と強大な軍事力を擁していた。
同じゲルン民族の中で、比較的に好戦的ではなくクリスストフ教への改宗をし、洗礼を受けた事で宗主府の庇護者となっているが。

(それと共に宗主府と仇なす、異教徒たちを倒す大義名分で周囲の国や従わない他の、ゲルン民族を倒し……)

 今の王国の礎となったのである。
ブリュナクが嫌な予感を感じたのは、フランキスカ王国の持つこの大義名分のせいだ。


 イーンスラ半島を中心にかつて広大な領土を支配していた、ノーグマ帝国は時と共に、異民族であるゲルン民族の流入や、政治勢力争いの混乱に加えてそれに伴う内部の反発で、衰退してゆく。
その時、異教の一つであったクリスストフ教がこの時期に、国教と定められて今まで、信仰していた古典宗教を捨て去った。
それと共に、クリスストフ教の宗主として、成立をさせた経緯がある。
それが宗主府であり、頂点に君臨するのが教皇たちだ。
 しかし、帝国の衰退は止まらずやがて、東西分割統治を行うもノーグマの都市が、異教的であり腐敗をしていると見なした東の皇帝が東の中心拠点としていたビザンツールへと、官僚や軍事、政府中枢を移してしまう。
これが今の東ノーグマであり、ユステニア帝国なのだ。
結果、西側の皇帝とその一族は及び残っていた者たちは無能が多く、西ノーグマは滅び群雄割拠の勢いで各地に、新たな国と君主が生まれてゆく。
統治者のいない中、中心的役割を果していくのが宗主府と、それに属する教会であった。
精神支配が大きい分、担うものも大きくなるがあくまでも、信仰の中心的なだけの宗主府自身が国家になった訳ではない。
軍隊を持たない彼らが頼ったのが、フランキスカ王国であった。


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