オケアノスの都

□第五章 動き始める時
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 夜が明けて朝早くにクラウソラスは、アンサラーを伴いリベルト島へ、戻っていた。
暖かな季節といっても、明け方の空気は冷たくて肌寒さを感じる。
港から街へ入る通りに、ノートゥングが待っていたのだ。

「 やぁ、傷はどうだい。クラウソラス? 」
「 大した事はない。ただアンサラーがいるから、色々と心配にはなる 」

 クラウソラスの言葉にアンサラーは、はっと見つめた。
その答えに、ノートゥングは笑み頷く。

「 余計なお世話だと、思うかもしれない。けど、護衛くらいは勝手にさせてもらうよ 」

 ふっとクラウソラスは笑み。

「 他の奴ならともかく、クルタナかノートゥングなら俺は構わない 」

 そう言ってチラリとアンサラーへ、目配せてくる。
アンサラーは、了解と頷き返す。
いくら剣の腕があるとはいえ、今のクラウソラスは万全ではない。

(それに、私も丸腰)

 自分の身くらいは守りたいが、短剣は邸なのだ。

「 じゃ、クラウソラス。行くかい? 」
「 あぁ。だが、邸に一旦帰って、エアに指示を出しておきたい 」

 それもあるだろうが短剣の事も気にをしていてくれて、アンサラーには嬉しく思う。
そうして、一旦はクラウソラスの邸へ戻り、再び街へ出た時はすっかりと日が高くなる。
クラウソラスが向かうはリベルト島の中心地、リベルト市場と呼ばれる商館が連なっている地区だった。


 リベルト市場へ足を踏み込んだアンサラーは、うわぁと感嘆を漏らす。
ヴァニスの商人に、北エウロパから来た行商人たちや、ユステニアから来たエスト人。
肌の黒い、異国情緒の溢れた衣装を纏うムサラムの人々。
初めて目にしたムサラム人たちに、驚きながら目を輝かせた。
アンサラーの表情は、ヴァニスに初めて来た興味と好奇心で満ちているのだ。

「 クラウソラス、ここが言っていた市場? 」
「 そうだ。ヴァニスの交易の中心であり、国の根幹そのもの 」

 聖ミケーレ地区は政治の中心地であるが、このリベルト市場は商業の中心地。
中枢と根幹は何が違うのかと、アンサラーは思ったが。

(そうか。交易自体が国を支えているから)

 ヴァニス共和国の基本とも呼べた。
日は高くなったと言ってもまだ昼前だ。
なのに、リベルト市場の活気はどうだろう。
行き交う人々。運河から水路に入り水路から運河へ、荷を運ぶゴンドラがひっきりなしに行き来を繰り返し、色んな言語が飛び交う。

「 呆然とするのは、後にしろよ 」

 との言葉にはっと、アンサラーは我に返る。

「 それで、情報を集めるのだね? 」
「 それもだが、まずは、奴に会って、短剣の造り直してもらう 」

 そう言って、クラウソラスは雑踏の中を歩き出す。


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