オケアノスの都

□第七章 謝肉祭の狂瀾
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 謝肉祭を明日に控え、リベルト島のあちらこちらでは賑やかさと活気で溢れかえっている。
クラウソラスの邸も取り扱っている物がよく売れてまた、謝肉祭に向けて忙しない様子。
特に侍女頭であり、秘書めいたものもしていたエアが抜けた穴を、アンサラーが補っている形でありアンサラーにとっても、大変なものだ。

「 商売って結構、大変なものだな…… 」

 倉庫にある在庫を、確認しながら呟く。
大変さはあったが、その為の教育を受け、それを実践をし手応えを感じて喜んだのも事実だ。
興味が今や、実を結ぼうとしている。

「 アンサラー 」

 名を呼ばれ振り返ると商談が終わったのか、クラウソラスが倉庫へと現れた。

「 どうだ? 」
「 うん。結構あるよ。けれど、胡椒はやはり、時期によるか品薄かな 」

 帳簿を見せながら報告をする。

「 冬が近いからな。謝肉祭を過ぎれば、船の航行は一気に減るし 」
「 あんなに、穏やかな海なのに? 」
「 女王の気紛れは、いつもの事だ 」

 と、肩を竦めて、茶化すのだ。
ネウス海を女性に例えるのは、ヴァニス人ならではだった。
ジェノヴェア人の自分だったら、海は荒々しさがあるのでどちらかと言えば、男性的な印象を受ける。

「 ねぇ。元首が就任の時に、ネウス海と結婚式を挙げると聞いたけど 」
「 海との結婚式だろ。就任だけじゃなく、春の大事な儀式さ 」

 何でも海洋国家として海上の治安や、海上交易でもたらされる富は大事なものだけに、ネウス海との忠誠を誓うこの儀式が欠かせない。
だから、元首を夫とし妻は海として、その妻が女王なのだと。

「 さしずめ、ヴァニス共和国は、ネウス海の女王の民って事だな 」
「 じゃ、海軍は騎士? 」
「 かもな 」

 そう言って、クラウソラスは笑ったのだ。


 仕事を終え朝食にしては遅く、昼食にしては早い食事を食べた後。
剣を携えて二人は、グンナーの邸を向かう。
エアの起こしたものの謝罪をしにだ。
本当なら、もっと早くに行きたかったが思いの外、忙しく提督であるグンナーも暇がなくて、今日だけが唯一の機会だった。

「 明日になれば、元首の護衛に回るから、先に延ばすと面倒だ 」
「 フランキスカで、色々と大変だしね 」

 得た情報によれば、フランキスカのピケス共和国への打診は、ヴァニス共和国の情報工作で失敗したものの。
リベルト島に近い港町を占領をし、船を作っていると。

「 海軍は打って出ないのか? 」
「 さっきも言ったが、冬のネウス海も荒くなる。それにリベルト島を攻めるのがどれ程大変か、知らしめるつもりらしい 」

 完膚なきまで叩きのめすと、総司令官のウルカヌスの言葉だ。
もっとも作戦と指揮は、提督であるグンナーの下で行うが。
それでも海軍は、否応にも士気が高い。


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