オケアノスの都
□第八章 海戦
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海軍庁舎にある、練兵場でガロテは剣を振るっていた。
それは鍛練というより苛立ちを発散する様な、荒々しいものだ。
「 ヌオォォッ! 」
咆哮の様な雄叫びを上げて、人に見立てたかかしを切り飛ばす。
地面には、何体ものかかしが真っ二つとなった無惨な姿を見せている。
と、そこへ足音がし、誰かが近づいて来た。
「 ガロテ殿 」
その声に振り返る。
声の主は黄金の髪に、ネウス海の深く蒼い瞳を持つ美貌とほっそりとした体格からは、妖しいまでの色香が漂う青年。
「 ……アンサラー 」
「 提督がお呼びです。執務室に来る様にと 」
そう伝えて、アンサラーはくるりと踵返すが。
「 待て! 」
ガロテがアンサラーの腕を掴み、引き寄せたのだ。
「 な……何を!? 」
「 アンサラー、また一段と……美しくなって 」
荒々しいまでのガロテの鼻息が、アンサラーの細い首筋にあたる。
まだ、肌寒い時もあるというのにガロテの身体は汗ばんでおり、その熱気と体臭でゾワッと粟立つ感覚がアンサラーの身体を襲う。
「 は……なせ! 」
アンサラーは、ガロテの腕を払い除けて睨む。
それなのに、ガロテの目ときたらだらしのなく自分を見つめてくる。
「 アンサラー! 最初はいけ好かない奴だと俺は思っていた……だが… 」
「 ガロテ殿。私は忙しいのでこれで、失礼を 」
と、アンサラーは会釈をする事もなく、立ち去ってゆく。
それを、何とも言えない視線でガロテは、見送るのだ。
修練場から執務室に続く廊下に来て、ほっと安堵する吐息を出す。
「 嫌な男…… 」
粟立った肌が未だに、引かない。
クラウソラスを探しだせなかった海軍は結局、彼を死亡という結論を下したのである。
証拠がないのにと、アンサラーは不満に思うも総司令官のウルカヌスの苦渋によるものだと知って、文句は言えなかった。
「 仮に生きてたとして、彼が姿を現さないというのは、性格を思えば…… 」
良く言えば大胆で不敵。悪く言えば不遜で傲慢。
そんなクラウソラスの性格は、アンサラーにもわかっているから、尚更だ。
「 提督閣下、ガロテ殿へ伝えておきました 」
そう言って、執務室へ入ると書簡に目を通していたグンナーが、顔を上げた。
「 ご苦労だ 」
アンサラーは今、グンナーの下で秘書官としているのだ。
クラウソラスの副官としていたのに、クラウソラスがいないとあれば、立場がなくなってしまった。
アンサラーとすれば、困った状況ではあったがそれを知ったグンナーは秘書官として、引き取ってくれたのだ。
「 アンサラー、これを頼む 」
「 はい 」
渡された書簡を、グンナーに代わって代筆をする。