オケアノスの都

□序章 儚き追憶
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 自分が13才を迎え本土にある別邸へと、父と共にやって来る。
風光明媚なこの一帯は、ヴァニス共和国の首都のリベルト島に住む、貴族たちの別荘が建ち並ぶ区域だった。
 父はティソーン=カルヴァヌスといって、ヴァニス海軍提督であり忙しい身の上ながら、自分の誕生日を祝う為に、ここへ訪れたのだ。
夏が終わって秋へ移行しつつあるのに、残暑の強い日差しで、眩しそうにテュルフィングは目を細める。
視線の先に、護衛の兵士へ話し込むティソーンの姿があった。
男性的で逞しい体格と共に赤みかかった髪の色を、自分自身も受け継いでのでテュルフィングは誇らしく思う。

(いつか、父の様な立派な海軍の軍人となり、共にヴァニス共和国の平穏を守りたい)

 と、抱きながら堀の深い精悍な横顔が胸に焼きつける。
この姿が、自身の父の最後の姿だった。


 瞼を開くと眩しい日差しが目を入り、クラウソラスの瞳を射すから眩しさを覚える。
ゆっくりと体を起こし周囲を見回した後、休息の合間に微睡んでいた事を思い出す。

(随分とまぁ……)

 あの頃はまだ、あどけなさの残る子供だったが、今はすっかりと一人前の若者へ成長し、こうして晴れて軍人となったが。
あの日以来、自分の運命は一変してしまった。
尊敬していた父は死に、親しい人も消えて自分自身の名前すら奪われる。
何もない開けた草地のこの地に、かつての別邸の姿は今や跡形もなく消えている。
草地に、僅かながら焼け焦げた土台だけが、その存在の片鱗を残す。

「いつまでも、思い出に浸る訳にもいくまい」

 空を見上げると、白銀に輝く鷲が空を飛ぶ。
あれは、自分の親友に贈った鷲であり、また自分自身の指令が入っている筈だ。
鷲へ鞣し革のバンドを着けた腕を高々と掲げるや、優雅に舞い降りて腕へ留まる。
鷲の足に革製の筒が巻かれており、筒を開くと紙片が入っていた。

「……ったく、面倒な任務を」

 内容を読み、悪態をつきつつクラウソラスは、傍らにある剣を手にして立ち上がる。
ふと視線を移し、目の前に広がる美しく蒼いネウス海と、首都のリベルト島の風景を眺めた。

「半年間は、この風景ともおさらばか」

 名残惜しい様子で、呟くと鷲を放つ。
鷲は悠々と風を受けて舞い上がってゆく。
それと共に、クラウソラスは歩きだす。


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