第01章
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『…くろの、……君?…あ、…ケース……
いっちー、って書いてるの、ある?』
「え……え、っ…と……」
彼女が彼にそう問うと、彼は戸惑いながら、
ケースを探すが見当たらない。ケースは全て
床の上に置いた筈なのに、と考えを振り返し
再度中を見てみれば案の定。そこには彼女の
アタッシュケースが残っていた。彼がケース
に手を伸ばした瞬間、横から別の誰かの手が
ぬっ、と伸びてきたと思えばその手にケース
を横取りされた。
「あ……」
「はい。」
『ありがと。』
横取りした奴は大人っぽい雰囲気を醸し出し
幼い顔立ちの彼女と並んで見ると、その差が
激しい。そしてまた、彼も同じケースを手に
していた。ケースには"にしくん"とあった。
「ケイちゃん!」
「お……、うおっ!」
手早くスーツを着て、戻って来た彼女。いき
なり声を張り上げる加藤。その声に、返事を
しようかと思えば、"ケイチャン"と呼ばれた
青年の足先がだんだんと消えていった。その
光景を見ていた彼女と"にしくん"。にしくん
こと、西丈一郎。二人は顔を見合せ、二人も
同時に頭部から消えていった。
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