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□刺客
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「リップクリームがさっきまでの製品と違うけど、どうしたの。」

開口一番。

凄いな。そこまで正確に言い当てられるとは思わなかった。

「いや、唇が切れちゃって。
その上リップも切れちゃって。
仕方なく友達のを借りたの」

間抜けだよね。
笑いながら言う。
そんな私の様子をじっと見ている立花君。

「どーかした?」

「それ使わない方が良い」

それって言うのは、多分リップのことだと思うけど

「でもこれ使わないと、痛いんだもん…」

唇の痛みを思い出して、思わず顔をしかめる。

「じゃあ替わりのをあげる」

「替わり?」

そう言ってくるりと向きを変えると、さっさと歩いて行ってしまった立花君。

どうやら私はここでしばらく待っていないといけないらしい。

えぇ〜…




「これ。」

2、3分くらい経ってからまたここに戻ってきた立花君。

ぽん、と私の手のひらの上に小さなボトルを置いてくれた。

「なぁに?これ。」

「ハチミツ。」

「ハチミツ…」

えぇーと。
舐めておけば治るってことかな?唾みたいに。
あれ?授業で習ったっけハチミツの効能なんて。

ともかく使い方が分からないで途方に暮れている私。
うぅぅ食専の生徒として情けないよ。

そんな私の様子を眺めていた立花君は、

「貸して。」

ひょいとボトルを私から取り上げた。

「え。くれるんじゃないの!?」

「貸すだけ。
第一使い方分かってないし。」

「し、調べるもん。そしたら分かるもん。」

取り返そうとして跳ねるけど、やっぱり身長の差があるのでまるで届かない。
屈辱的なのは立花君は全然背伸びとかもしないで涼しい顔してるところ。
くっ!負けるか!!

「あぁもう分かった。あげるから…。
とりあえず使い方も教えるから。」

私の根気に折れたのか、ため息をつきながら言った。

―ふふふ、勝ったぞ!

満足したので跳ぶのを止めて大人しく立花君の前に立つ。

「じゃあやってあげるから普通に立ってくれる?」

言われたとおり素直に命令を聞く。
今は向かい合うようにたっているわけです。

「じゃあ目ぇつぶって。」

「ぇ、なんで」

「何となく」

「なんとなくでセクハラみたいな命令すんの止めないかなぁ?」

そう文句を垂らしながらも結局言うとおりにするあたり、自分で言うのもなんだけどかなり素直な性格だと思う。

ガチョ、とボトルの蓋を捻る音がする。


目を開けないでいるので、耳で拾える音に神経が集中する。


少し私の顔を上に向かせるように持ち上げる。


…って、よく考えてなかったけど、このシチュは、かなり恥ずかしいんじゃないか…?

今になって自分の置かれた状況を理解してきた私。
まぁ今の時間はみんな学食に行っちゃっててほとんど居ないから大丈夫なんだけど。
いや何が大丈夫なのかって聞かれたら困るんだけどね。

なんてどうでもいいことを考えているとですよ。

「に゙ゃぁ!!!!!!!!!!!!!!!」



唇に、何と言うか、冷たい感触、が!



「え、ちょ、何、た、立花くん!?」

「俺だけど、何か。」

「いやそうじゃなくて、何今の変な感じは!」

「ハチミツだけど、何か。」

「いやそうじゃなく、て、はい?」

ハチミツ?

ハチミツって。

「これは、塗って使う。」

「…はい。」

「だから、疾しいことを考える奏は、ただの変態ってこと。」

「……はい。」

馬鹿です。何も言えない。

羞恥心のあまり泣き出しそうになっていると、立花君がまた何か言っているような気がした。



「まぁ隙有らば、そーいうことも。」






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