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□大切
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「ストップストップ立花君。」

図書館前を歩いている時、声をかけられた。

「……なに。」

さっきのこと(ミイラ事件)があったせいか、少し気が立っていたので知らず刺のある言い方になった。

「何って、左手怪我してるじゃん」

が、彼女はそんなことに興味がないらしく、構わず話し掛けて来た。

…そういえば切ったな。忘れてた。

「そういえばじゃないでしょ…。
少なからず料理人の卵なんだから手くらいもっと大切に扱いなよ」

ため息をつきながら手の怪我の具合を確かめている奏。

言っちゃ悪いが今の自分にとってはただのお節介にしかならない。

「別に気にしないから、離して。」

半ば力付くで奏から手を離す。
このまま放っておくと仕舞には何処かの病院にでも連れていかれそうだ。
さっさと帰るのが吉日。
そう思って奏に背を向けて歩
「立花君が気にしなくても私が気にするんだっつーの。
いいから来なさいって」

こうとしたけど服を捕まれてどうしようも無くなった。




「はい応急処置終了っと。
今日一日外さないでおけば明日には治ってるはずだから。」

言いながら奏は保健室の棚に使った物をてきぱきと戻していく。
自分の指に巻かれた絆創膏。
間には傷に良いからという理由で薬草のようなものが挟まれている。
同い年とは思えないような対応の仕方だ。
尊敬すべきか、婆臭いというかなんというか。

「…お節介。」

「聞こえてるっつーの」

こちらに背を向けたまま言葉を返してくる。
片付けが一段落したらしく今度は向かいに置いてある椅子に腰掛ける奏。

「というか立花君何かあったのかい?そんな傷こしらえて来るなんて珍しいじゃない」

「別に。第一来てないし」
「何かあったの?」

…無理にでも聞きたいらしい。

「実は、悪の秘密結社に追われてて、ついさっき追っ手と闘っていた。」

「なーんちゃってなんて言ったら私怒るよ?」

「…」

折れた。

仕方ないので掻い摘んでついさっきまであったことを話す。

「掻い摘んでって言うか立花君が友達をミイラにしようとしたことしか分からないんだけど。」

「でもちゃんと話した。」

「間違っちゃないけどね…。
人に伝える努力をしてくれ。」

「そこからはそっちの事情だ」

「私の読解力が低いってことかい。」

そりゃすいませんでしたな、と微塵も思っていない様子で奏が言った。
ついでにこっちが最後までいう気がないのを悟ったらしく、今度は奏が折れた。

「じゃあもう帰っていいや。
じゃあね。」

今度の言葉には素直に従う。
「可愛くない性格。」
奏の罵る声が聞こえたがスルー。

とりあえず手当てしてくれた分は感謝するとしよう。

そのままの流れで保健室を出ていこうとしたが、部屋の方からまた奏の声がしたので足を止める。

「今度はなに。」

「…えーと。何だろう。」

「知らない。」

「つ、冷たいなぁ」

適当な会話を続けてみても、一向に話題を切り出さない奏。
そんなことは滅多にないので、逆に心配になる。

「で、もう本当に帰るけど。
いい?」

表には出さないけど。

「あぅ…。
いやどうも立花君がなんとも自己中心的な考え方をしているから釘を刺そうと思ったんだけど。
私みたいな第三者なんかがそういうこと口出したらただのお節介になるかなー…と思っちゃって…」

はぃ?

「聞いておくけど。今頃?」

「え。今までそんなことあった?」

無自覚だった。

「…それは、すごいお節介だね…。」

「ぁ。やっぱり?」

ついさっきまでの勢いも死んだように、勝手にしょぼくれ始めた奏。

変な所だけ謙虚だ…。

「っていうか、そんなこと関係ない人に言われる筋合いはない、し、言う筋合いもない。」

放って見ていると、どんどん勝手にしょぼくれていく。

仕方ない。

「…なーんちゃって…」

自分でもわかるくらい嫌そうに呟くと、奏がぴょんと顔をあげた。

…なんて言うか、わかりやすすぎる。
つーか安すぎる。

「…アンタの意見も参考にしておく。
というより、してやる。」

「え、何それ。」

「…うるさい
あと、俺は基本的に、第三者の話は聞かない。」

きょとんとした顔の奏をそのままにして、保健室を今度こそ後にした。

なんというか、捨て台詞を吐いて逃げる悪役まがいだった。


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原作立花くんの治癒能力の異常な早さ!


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